2016年6月24日金曜日

ワーカーズネット講座 第34回「 仕事上のミスを理由とする損害賠償 ~会社から「辞めたら損害賠償するぞ」と言われた~」


Y弁護士:夜になると顔色が悪く(=青く)なる弁護士。同じ事務所の姉弁からお土産に天然素材の脱毛クリームをもらう。
Z:Y弁護士の母校の後輩。現在,飲食店でアルバイトをしている。
※ ある川崎の鰻屋にて。
Y「ここの鰻屋さん,美味しいでしょ?」
Z「はい」
Y「川崎で一番美味しいと思うね。思わず『無類である』とつぶやきたくなってしまう」
Z「そうですね」
Y「君の微笑をたたえた表情が鰻の美味しさのすべてを物語っているよ。嫌みにならない程度にほどよく乗っている脂,泥臭くなく,ふっくらとした身,鰻そのものの素材を生かすタレが脂とともに相互に高め合って・・・・・・」
Z「Yさん」
Y「なんだい?」
Z「なんだかんだで,Yさんがすべてを物語っていますよ」
Y「・・・・・・。それはともかく,相談ってなんだい?」
Z「私,今大学2年なんですが,司法試験を目指して,本格的に勉強をしようと思っているんですよ」
Y「ほう」
Z「それで,大学1年からやっている飲食店のアルバイトを辞めようと思って,店長に来年の3月に辞めると伝えたんですよ」
Y「うんうん」
Z「すると,店長が『君が辞められたら困るんだよねぇ・・・・・・せめて大学卒業するまでは働いてよ』って言ってきたので,私は,断ったんです。断ったら,突然店長が激昂して『君がどうしても辞めるんだったら,これまで割ったコップ,お皿の損害賠償請求するから覚悟しておけ』って言われたんです。」
Y「どういう状況で,食器を割ったの?」
Z「通常の食器洗いの際に,いくつか割ってしまっていて,他の人と差はないと思います。店長も,特に,食器を割っても弁償しろとか言ってきませんでしたし,実際に,請求されたことはありませんでした。バイト先の今も働いている友達や辞めた友達にも聞いたんですが,誰も請求されたことはなかったと言っています。」
Y「なるほど」
Z「民法の講義(不法行為法)で習ったんですが,やっぱり,過失があるから損害賠償しなければならないんですよね?」
Y「いや,そうとも限らないよ」
Z「えっ?! 本当ですか?」
Y「今まで,嘘のこと以外は本当のことしか言ったことがないから間違いないよ」
Z「そうなんですね……って当たり前の事じゃないですか」
Y「ごめんごめん」
Z「それで,損害賠償しなければならないのは,どうしてですか」
Y「些細な不注意,たとえば,飲食店で食器を割ったり,釣銭を多く払いすぎてしまうことは,日常的に,一定の割合で発生するものでしょ」
Z「はい」
Y「使用者は,そのようなことは当然予見できるものだし,労働者を使って利益を上げていることから,そういった労働過程上の軽過失によって生じる損害というリスクは,労使関係における公平の原則から使用者が甘受すべきだと考えられるんだよ」
Z「へぇー,そうなんですか。そうすると,わざと損害を与えたり,不注意の程度が重いと損害賠償責任を負うことはあるんですか」
Y「鋭い質問だね。まず,窃盗や業務上横領等の犯罪をして損害を与えた場合などは,全額について賠償義務を負う可能性が高いね。他方,重過失,すなわち,不注意の程度が重くても,損害の公平な負担という見地から,一定限度に限って賠償を認めるのが大半で,全額賠償を認めることはほとんどないね。」
Z「なるほど。どういった点に着目して,判断されるんですか」
Y「一概にはいえないけれど,①労働者の不注意の程度,②使用者側が労働者に対してどの程度教育・訓練したか,どれくらい業務命令を周知させていたか,保険の有無などの管理体制の内容,③労働者の資力や労働条件の劣悪さといった労働者の置かれた状況などが考慮要素だと考えられているね」
Z「そうなんですか。そうなると,私の場合は……」
Y「話を聞く限り,損害賠償責任は負わないだろうね」
Z「これで安心してご飯が食べられます」
Y「街角で無料労働相談をしていると,学生さんから,そういった相談を受けるね」
Z「そうなんですね」
Y「他にも,大学生から『労働組合って何ですか?』という質問を受けたことがあるね」
Z「私自身も,きちんと理解しているかといわれると……」
Y「多くの人は労働者になるのだから,自らの身を守るためにも,そして使用者になる人も,労働者の権利を侵害しないためにも『ワークルール』をしっかり学ぶ必要があるね」
Z「そうですね。実感しました。でも,なかなか,学ぶ機会がないような気がするんですが」
Y「鋭い。たとえば,『残業代ゼロ法案』の問題の前提となっている,労働時間規制について,育鵬社の中学校の公民の教科書では,『1日8時間労働制』としか記述されておらず,どのような内容なのか,どうして規制されているのかなどについて,全然書いてないんだよ」
Z「へぇー,そうなんですか?」
Y「このようにワークルールを十分に教えない一方で,『職業には責任がともないます。責任を果たしていくには,ときには苦労や忍耐も必要になります』という記述があるんだよ。権利を十分に教えないまま,責任,苦労,忍耐の必要性を説くことで,労働者が自らの権利が蹂躙されているのに気が付かずに,責任,苦労,忍耐の掛け声の下,労働者が追い詰められていき,過労死,過労自死,精神疾患の発症などを招いてしまうんだよ」
Z「そうなんですね。私もこれを機にいろいろ勉強したり,友達に話してみます」
Y「そうだね。まず,自分の周りの出来事に対してアンテナを張って,何かおかしいと思ったら,調べたり,いろいろと議論したりして,必要であれば,行動に移すことが大切だね」
Z「わかりました。あっ,今,私おかしいことに気が付きました」
Y「ん,なんだい?」
Z「Yさんは,日本酒をたくさん飲んでいますが,私はお酒を飲まないから,もっと鰻を注文しないと,飲食代の『公平な分担』になりませんよね,すみません『白焼』ひとつください」
Y「……(おごるんだからそこは……)」
続く

2016年6月8日水曜日

ワーカーズネット講座 第33回  ~マタハラに対抗するための基礎知識~


1 はじめに
  はたらく女性が,妊娠や出産をきっかけに使用者から不利益な扱いを受けてしまった,いわゆるマタニティハラスメント(マタハラ)に関するご相談をよくお受けします。ですので,今回は,マタハラに対抗するために,女性を保護するための法律知識をご紹介します。
2 産前産後の休業
 使用者は,6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には,その女性を働かせてはいけません。また,使用者は,産後8週間を経過しない女性を働かせてはいけません。
 このような産前産後の休業期間及びその後の30日間は,使用者はその女性労働者を解雇することが禁止されます。
 そして,産前産後の休業をしたことそれ自体を,昇給や昇格・ボーナス算定上,不利益な資料とすることは,違法です。
3 育児休業など
 ①1歳未満の子を養育する労働者は,その子が1歳(場合によっては1歳6カ月)になるまでの期間,育児休業を取得できます。
 ②小学校入学前の子を養育する労働者は,使用者に,残業の制限や深夜業の免除,勤務時間短縮などを求めることができます。
 ③これらの制度を使ったことを理由として,使用者が,解雇や更新拒絶,減給といった不利益な取り扱いをすることは,違法です。
4 終わりに
  以上のような法規制に反する,違法な措置を使用者が行ってきた場合には,1人で悩まず,私たちワーカーズネットや弁護士,労働組合等に,すぐにご相談ください!!

2016年6月4日土曜日

ワーカーズネット講座 第32回「命をも奪う、若者の働かされ方の現状と司法の役割」


≪新卒過労事故死裁判 原告代理人の意見陳述より≫
■ 第2回裁判期日:7月23日(木)■
10時00分~ 裁判期日 横浜地方裁判所川崎支部第1号法廷(教育文化会館向かい)
10時20分~ 報告集会 川崎教育文化会館 第三会議室
以下、第1回意見陳述で原告代理人が裁判所に述べた意見陳述です。
第1 事件の概要 
  本件は、被告会社グリーンディスプレイ(以下、「グリーンディスプレイ」といいます。)が安全配慮義務に違反し、渡辺航太さん(以下、「航太さん」といいます。)に長時間労働を強いて疲労を蓄積させた結果、職場からの帰宅途中に事故死した事件であり、遺族原告がグリーンディスプレイに対して損害賠償請求を求めて提訴しました。
1 グリーンディスプレイにおける長時間・不規則深夜労働 
航太さんは、グリーンディスプレイにおける就労開始当時から、長時間におよぶ不規則深夜労働を強いられて、疲労が蓄積していました。
(1)長時間労働
航太さんは、2013年10月、アルバイトとしての就労開始当時から、週6日フルタイムでの勤務を要求され、1週間連続勤務となることもありました。時間外労働は、100時間を超すこともあるなど、長時間労働は常態化していました。
厚生労働省は、時間外労働が1ヶ月あたり45時間を超えるときは労働者を疲労を蓄積させ、健康を損ない、長期間に渡るほど、過労死として認定されるとの基準を示しています。航太さんは、6ヶ月以上にわたり、過労死に陥り得る過酷な就労環境に従事していました。
(2)不規則深夜労働
さらに、航太さんは、深夜早朝に及ぶ不規則労働に従事していました。これは、航太さんが、日中行われる水やりなどの作業の他、百貨店などの顧客店舗内で草花・観葉植物の設置や飾りつけをするなどの顧客店舗の営業中にはできない作業に従事させられており、営業終了後、深夜から早朝にかけて作業させられていたからです。なお、試用期間中のアルバイトとされていた航太さんは日中から深夜早朝に及ぶ不規則労働に従事させられていましたが、裁判を準備するための調査の中で、他の正社員は日中または深夜早朝の規則的なシフトが組まれていたことも分かりました。航太さんはグリーンディスプレイの従業員の中でも特別過重な労働を強いられていたのです。
徹夜の作業のため、業務終了時間が深夜早朝にわたる時は、電車などの公共交通機関が運転していませんでした。そのため、航太さんは、徹夜労働の後、さらに睡眠時間を削り、1時間かけて原付バイクを運転して帰宅せざるを得ませんでした。
不規則深夜労働は、人間固有の「サーカディアンリズム」という生活リズムに反し、疲労が蓄積しやすいため様々な健康被害に陥りやすいもで、厚生労働省の過労死認定基準でも、考慮要素とされています。
先輩たちは、航太さんに対して、「手がもげても足がもげても働け」「さすが平成生まれだね」など厳しい言葉を浴びせかけました。
それでも、航太さんが、グリーンディスプレイにおける過酷労働に無理をして従事していたのは、正社員としての試用期間として位置づけられていたからです。就職難のなか、航太さんは、正社員として採用してもらうために、無理をして過酷労働に従事し、その結果、恒常的に疲労が蓄積していました。
2 グリーンディスプレイにおける労働と本件事故の因果関係があること
  グリーンディスプレイで就労を開始して半年後、2014年3月に、航太さんはようやく正社員として採用されましたが、長時間不規則勤務は続きました。特に本件事故前日の4月23日から、事件当日の翌24日の朝までは、航太さんは約22時間もの長時間勤務に従事しました。
2014年4月24日午前9時12分頃、航太さんは、横浜にあるグリーンディスプレイの事務所から、東京都稲城市の自宅へ、原付バイクで帰宅途中、川崎市麻生区の路上で、電柱に衝突しました。そして、脳挫傷、外傷性くも膜下出血の傷害を負い即死しました。本件事故現場は、見通しの良い直線道路であり、路面は平坦なアスファルトで、乾燥していましたが、航太さんは、左右への回避措置や制御措置を全くとならないまま電柱に衝突したことが分かっています。
航太さんは、グリーンディスプレイの下で、6か月に渡り長時間業務に従事しており、本件事故の1ヶ月前も、徹夜勤務により、時間外労働時間は80時間を超え、疲労が蓄積していました。さらに、本件事故直前の3日前、2日前も、長時間勤務が続いており、最低限の睡眠時間すら確保するのが難しいほど長時間労働に従事していました。さらに、本件事故直前は、24時間近い徹夜勤務の後、睡眠をとることもできないまま、原付バイクで帰路についたのです。
以上の経緯から、航太さんは、本件事故直前、極度の心身の疲労と睡眠不足の状態にあったのは明らかです。その結果、航太さんが、原付バイクを運転して帰宅する途中、睡眠不足や過労から注意力低下、居眠り等の状態となり、本件事故が起きたのです。
3 グリーンディスプレイの安全配慮義務違反
 会社は、労働者の生命及び健康を危険から保護するように配慮する義務、すなわち安全配慮義務を負っています。
グリーンディスプレイは、航太さんの勤務シフトを作成していました。そのため、グリーンディスプレイは、航太さんが連日深夜に及ぶ業務に従事し、深夜早朝に及ぶ場合は、航太さんが原付バイクで片道約1時間通勤せざるを得ないことを認識しており、過労状態・極度の睡眠不足が原因で本件事故を発生しうることは、十分予測可能でした。
したがって、グリーンディスプレイは、航太さんが極度の睡眠不足になることを予見し、業務の軽減を図るなどの適切な措置を講じることにより、航太さんが極度の疲労状態、睡眠不足に陥ることを回避すべき安全配慮義務を負っていました。
しかし、グリーンディスプレイは、企業利益追求を優先し、安全配慮義務を怠った末、航太さんを死に追いやったのです。
グリーンディスプレイの加害責任は明らかです。
第2 本裁判の意義と司法の役割
1 遺族のグリーンディスプレイに対する加害責任の追及
  本裁判は、未来の希望にあふれた若者であった、航太さんのかけがえのない命が一瞬で奪われた、凄惨な事件です。ご遺族原告の悲しみは計り知れません。奪われた命は、戻ってきません。遺族原告は、本訴訟において、航太さんの命を、お金に変えることを望んでいるのではありません。お金で済む問題ではないのです。
それでも、遺族原告が提訴を決意したのは、決して消えることのない喪失感の中、グリーンディスプレイの加害者としての責任を明らかにし、航太さんの無念を晴らし、航太さんと共に前に進むためなのです。裁判所におかれては、失われた航太さんの命の重み、遺族の決意を受け止めて頂くようお願いします。
2 労働者の非正規化と行政の規制の怠り
 加えて、本件提訴は、昨今社会問題となっている若者の雇用問題が背景にある事件として、提訴時から社会的注目を受けています。
  本件事故の背景として、労働者の非正規化があります。労働者の非正規化が進む中、若者は正社員としての就職を切望しています。グリーンディスプレイは、このような若者の気持ちを利用し、試用期間であるとしてアルバイトとしての就労を求め、長時間過酷労働に従事させ、使い捨てたのです。本件事故の背景には、雇用形態の非正規化の進行と、若者の就職難があります。
  また、労働行政の怠慢も、本件の背景にあります。航太さんは、グリーンディスプレイのハローワークの求人票を信頼し、応募したところ、求人票の記載とは全く異なる過酷な労働に従事させられることとなりました。すなわち、求人時に、企業から労働者に対し、虚偽の情報提供がされており、公的機関であるハローワークがそのような虚偽記載を放置したことが原因で、航太さんのような犠牲を生みました。
以上、労働者の非正規化の中での若者の就職難と、企業による若年労働者の使い捨て、そしてこれに対する労働行政の対策の怠慢という、昨今のいわゆる「ブラック企業」問題の被害の極限が、本件なのです。そのため、本裁判は、広く社会的注目を受けています。
3 過労死事件における司法の役割
航太さんの従事していた長時間労働及び深夜不規則労働は、過労死認定基準に該当するほどの過重労働であり、過労の蓄積の結果、事故死に至たりました。本件は、企業の経済的利益追及によって、労働者の命が奪われてしまった過労死事件として位置づけられます。
「過労死」救済の歴史において、これまで司法が果たしてきた役割は大きいものです。労働行政が、企業の横暴による労働者の「過労死」の救済をなかなか認めないなか、司法が、労働者の命に真摯に向き合った判決を下すことによって、国による救済と対策の道が切り拓かれてきた歴史が、「過労死」の歴史です。そして、長い闘いの末、ようやく昨年、過労死対策の基本法として、過労死等防止対策促進法が成立しました。
現在のところ、過労死等防止対策促進法の対象とする「過労死」は、脳・心臓疾患と、精神疾患による自殺であり、本件のような過労事故死は含まれていませんが、過労事故死は、調査研究の対象とされ、調査の結果によっては、今後の対策が取られる可能性があるものとされています。
近年も、大学病院の医師であった大学院生が帰宅時に交通事故死したという事例において、その原因は過労であったとして、大学病院の安全配慮義務違反が認められた裁判例がありました。このような先例に加えて、本裁判の帰結によって、過労事故も含めた過労死対策を強化させるものになり得るものです。
裁判所におかれては、航太さんの命の重みに真摯に向き合い、本裁判の社会的影響を踏まえて、2度とこのような悲劇を繰り返さないため、司法としての役割を果たすべく審理されるよう切望いたします。
          以上

ワーカーズネット講座 第31回「命をも奪う、若者の働かされ方の現状」



≪新卒過労事故死裁判 遺族の意見陳述より≫
 
「航太は大学の夜間部に通い、働きながらの大学生活を送り卒業まで6年かかりました。在学中も就職活動は行っていましたが、現状は厳しく、卒業してからもバイトをしながら就職活動をしていました。しかしなかなか面接までたどり着けません。私はハローワークの求人なら安心だろうとアドバイスしていました。
重視しているのは、労働時間と「夜勤」のないこと、マイカー通勤不可であることでした。私は介護の仕事をしており、夜勤での車やバイクでの通勤は、どんなに気をつけても危険であることを良く知っていました。
今になって思うのは、求人票に真実が記載されていれば、私はこの会社を絶対に選ぶことはなかったということです。」
「私が勧めたグリーンディスプレイの説明会に航太は参加しました。仕事の内容は、大手デパートやお店むけに、主に植物をディスプレイする仕事でした。航太の興味あるもので、就職したい気持ちは膨らんでいったようです。
航太は最終面接に進みましたが、合否の知らせはありませんでした。ただ面接では、試用期間としてアルバイトの誘いがあったため、航太は正社員として働くことを期待して、10月からアルバイトを始めました。そしてクリスマスシーズンに向けて大変忙しく働きました。」
「航太の仕事は、翌年の平成26年のお正月・バレンタインデイ・ホワイトデイとイベントごとに忙しくなり、私との生活時間もすれ違いとなり、話す時間も無くなっていました。どんどん航太が疲れた表情になっていくのがわかりました。」
「このような状態にも関わらず、会社から内定通知が届かないことに不安は大きくなり3月になってもアルバイトのままだったことから、次を探し始めたところ、突然上司から口頭で“3月16日から正社員に採用、現状の部署に配属する”と言われました。しかしその後書面での通知もなく、雇用契約書も就労規則もないことを私は不審に思っていました。」
「小さいころからほとんど愚痴を言うことのない航太でしたが、
会社の先輩に、
「平成生まれはあまいな~」
「辛いとか嫌だとか直ぐ顔に出る奴だ、いつも笑ってろ!」
「手がもげても、足がもげても働かなきゃいけない」
パワハラを受けていることを話してくれました。
そんなことを気にする人間ではなかったため「何故?」と心配になりました。
今思えば、もう疲れ果てて本来の前向きな航太ではなく、ぎりぎりのところで私に伝えたかったのでしょう。」
「正社員になっても航太の仕事内容は変わらず、求人票のシフトとは大きく違いました。大好きな仕事を見つけた喜びも失望・諦めに変わりはじめ、航太は、5月の連休に時間をつくってもう一度今後の仕事について私と話しをする約束をしました。」
「亡くなる一週間前には、私が食事の準備をしても、航太は食べなくなっていました。」
「最後に航太を見た4月22日の朝は、服を着たまま布団もかけないで寝ていました。私は布団をかけてやり、軽く身体をゆすりましたが、起きませんでした。これ以上起こすのも忍びなく、まさかこの日も働かされるとは思ってもいませんでしたので、
私は、航太に「ゆっくり寝て、身体を休めて。そうじゃないといい仕事はできないよ」
「身体を壊しちゃうよ。今日は一緒に夕飯を食べようね。」と声をかけました。
やはり返事はありませんでした。
いつもなら「わかった、お母さんいってらっしゃい、気を付けてね!」と寝ぼけながらも必ず返してくれましたが、全く反応はありませんでした。そのまま眠って欲しかったので起こさず、私は出勤しました。
「航太がバイク事故で亡くなった」と私が聞いたのは4月24日の朝、仕事で移動中の電車の中でした。携帯電話に異常な数の着信が入ったので途中下車して訃報を聞きました。
その時にはもう航太は病院から警察へ移送されるところでした。
電車のホームで「病院へ戻して!航太を直して!病院へ!航太はもっともっと生きたいのよ!お願いします!お願いします!」と
大声で携帯電話に向かって叫んでいました。」
「最愛の息子を亡くして約1年が経ちます。まだ亡くなったことが信じられません。航太の帰りを私は毎日毎日待っています。」
「求人票を信じた私のせいであり、航太の正社員になりたいという希望と、母親を安心させたいという気持ちが航太の人生を終わらせてしまったのではないか。できることなら航太と変わってやりたい。」
「グリーンディスプレイは全てがでたらめで、まじめに働こうとする人間を軽視しています。雇い入れておきながら通勤方法や通勤時間、睡眠時間など配慮がなく、仮眠室もきちんと整備されていませんでした。航太が亡くなってからも線香をあげるでもなく、お墓の場所を聞いてくるでもありませんでした。短期間バイトしていた人間が事故を起こして、亡くなった。それだけのことなのです。」
「ハローワークの求人票と実際の労働条件が違うことを問い詰めても“求人票通りの会社はない”言われました。嘘の記載があったにも拘わらず信じてしまった方が常識はずれといわんばかり。何を信じて就職先を選べば良いのか。」
「グリーンディスプレイは、都会の有名店でお客様に夢を売る仕事に携わっていながら、裏では人間を人間扱いしない会社です。私は、街に出てそれらの装飾も見るのがつらいです。」
「航太は“好きな仕事に巡り合えたのだから幸せじゃないか”と自分に言い聞かせ、
夢を力に変えて、最大限努力していました。
そんな人間の命までも奪うほどの利益優先の企業体質は許しがたいです。」
「今後、就職する若い方のためにも、この裁判では、おかしなものはおかしいと、はっきり認めてもらいたいと思います。」
「航太は、高校卒業少し前から離婚により、私と航太の兄と3人生活となりましたが、忙しい母を手伝ってくれました。大学は夜間を選びアルバイトをしながら母の負担を軽くしてくれました。最近では親子が逆転し、航太から私の体調を気遣ってくれました。何事にも前向きで、明るく、コツコツ積み上げて行く生き方に自信をもって歩き始めていました」
「私に良く言っていた言葉があります。」
“生きていることは奇跡なんだ。
一瞬一瞬が奇跡なんだよ!
大事に一生懸命生きないともったいない!
せっかくお母さんが、奇跡をくれたんだから!”
[みなさん、裁判の支援をお願いします]

2016年5月16日月曜日

ワーカーズネット講座 第30回「~一方的に賃金を減らされて,黙っていた場合,減額に合意したことになるの?~」


Y弁護士:ある法律家団体の記事を書くために,とんかつを食べ過ぎたことによる後遺症から脱却すべく,ジョギング等運動をしたいと考えているが,別な意味での「運動」が忙しくて運動できていない自称「へたれぷにょん」。
C:第10回で登場。地位確認とバックペイを求めて労働審判手続を申立てて,解決金をもらって,退職。現在は,ある飲食店で働いている。
※ とある川崎のとんかつ屋にて。
Y「・・・・・・(もぐもぐ)」
C「先輩?」
Y「・・・・・・ん?」
C「・・・・・・美味しくないですか?」
Y「いや,思わず『無類』と呟いてしまうほど美味しいんだけど・・・・・」
C「あっ,先輩太りました?」
Y「(ぐさっ)うっ・・・・・・いや,気のせいでしょう」
C「だから,そんな切ない顔をしていたんですね,ははは」
Y「笑うなよ」
C「運動したらいいんじゃないですか」
Y「『運動』ならしてるよ」
C「どんな運動ですか?」
Y「戦争法案反対運動,労働者派遣法改悪反対運動……」
C「その『運動』じゃないです」
Y「わかってるさ。でも,法律家としてすべき『運動』が忙しくて,運動ができないとは・・・・・・」
C「まあ,あんまりくよくよしてもしょうがないですから,美味しいとんかつでも食べて元気出しましょう」
Y「そういえば,Cって飲食店で働きだしたんだよね」
C「はい」
Y「どうだい」
C「……」
Y「あんまり,よろしくないみたいだね」
C「ええ……あっ,すみません,キャベツのお替りお願いします」
Y「……やっぱり,そんなことはないかな?」
C「いえ,普段だったら,キャベツの大盛りと味噌汁をお替りするところですから,相当深刻です」
Y「……まあ,それはともかくどうしたんだい?」
C「実は,2か月前の給与明細書を見たら,契約時の基本給から5万円も下げられていたんです・・・25パーセントカットですよ」
Y「会社と基本給を下げる旨の合意をしたの?」
C「いいえ」
Y「就業規則,賃金規程,労働協約の変更とか,懲戒処分があったの?」
C「そういったこともありません」
Y「会社にはなんで下げたか聞いたの?」
C「いえ。でも,勇気のある同僚が社長に聞きに行ったら,『お前たちは,全く持って熱意がない。会社のためにもっと汗水たらして働かんかい。お客様によりよい低コスト・高サービスを提供するためには,お前たちの賃金を下げるほかないんだよ。下げても,払い過ぎているくらいだからな。そんなこと言いに来る暇があったらさっさと働かんかい,このボケ』と恫喝されて,全く持って相手にされなかったと言ってました」
Y「ひどいな」
C「でも,私なんか,何も文句も言えず,すでに2か月分黙って,その額の給料を受け取ってしまったんですよ,あーあ,これってもう争えないんですよね。」
Y「ん? そんなことはないよ」
C「えー,そうなんですか?」
Y「ああ。労基法24条1項本文は,いわゆる賃金全額払の原則を定めているでしょ」
C「はい」
Y「この趣旨は,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る点にあるんだ」
C「そうなんですね」
Y「その趣旨からして,賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は,労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限って有効とされるんだよ」
C「でも,黙っていたら,自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することになって承諾していたことにならないんですか?」
Y「そのように判断した裁判例もあるけど,黙っていても承諾していたことにならない裁判例も多くあるんだよ。例えば,使用者から,賃金を20パーセント減額され,そのまま3年以上減額した賃金の下で就労していた事案において,『労働契約において,賃金は最も基本的な要素であるから,賃金額引き下げといる契約要素の変更申入れに対し,労使間で黙示の合意が成立したということができるためには,使用者が提示した賃金引下げの申入れに対して,ただ労働者が異議を述べなかったというだけでは十分ではなく,このような不利益変更を真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に必要であるというべき』として合意の成立を否定した裁判例をはじめ,黙示の合意があったとは容易に認められないんだよ。」
C「そうなんですね」
Y「今度,事務所に来て詳細に聞くよ」
C「あー,なんだか安心したら,お腹が減ってきました」
Y「まさか,更にキャベツと味噌汁のおかわりをするんじゃないだろうね」
C「いいえ,すみません『ロースカツ定食』をもう一つください! もちろん先輩のおごりで」
Y「・・・・・・」
続く

ワーカーズネット講座 第29回「 ~緊急!!派遣法の「改悪」案=「一生派遣法案」とは?!~」


1 派遣ってなんだろう?
  まず抑えるべきなのは,「派遣」という働き方は,例外的な働き方であるということです。
 なぜか?
 それは,派遣の場合,直接の雇用主でない者(派遣先)の下で,派遣労働者は働くことになりますよね。直接の雇用主でないということは,派遣先は,派遣労働者と契約関係(雇用を維持する義務とか)にないということです。そうすると,派遣先は,直接の契約関係にないことをいいことに,例えば,派遣労働者に無理難題をおしつけ,それに応じなければ,交代を言い渡すことが簡単にできてしまいます。直接の契約関係(労働契約)にあれば,交代の言い渡し=解雇なので,解雇には法律上厳格な規制がされており,簡単に交代の言い渡しなどできません。
 派遣労働者は,このような不当な取り扱いを受けやすいので,現在,派遣法によって規制されているのです。
 それでは,現在の「派遣法」でどのような規制がされているのでしょう?
 それは,原則1年、最長3年の期間制限があり,これ以上,同じ業務を派遣労働者にさせることは禁止されています。そうすることで,派遣先は,遅くとも3年後に,派遣労働者を直接雇用しなければならなくなり,派遣労働者が一生派遣労働者の地位におかれてしまうことを防止しているのです。
2 「一生派遣法案」が衆院で強行採決されようとしています!
  しかし,この「派遣法」が「改悪」されようとしています。 しかも,今週にも衆院で強行採決されてしまうおそれがあります。
 では,どのように改悪されようとしているのでしょう?
 簡単に言うと,原則1年,最長3年の現在の派遣受け入れ可能期間を,事実上なくしてしまい、派遣労働者を永続的に受け入れるすることを可能とするものです。これはいわば,「一生派遣」法案です。
 厚生労働省の派遣労働力調査では、派遣社員の約6割が,正社員を望んでいます。正社員の方が,地位が安定しているし,お給料も高いことが多いですから,当然ですよね。それなのに,今回の「改悪案」が出てきています。要するに,今回の「改悪案」は,労働者のためではなく,企業のために,国が作り出そうとしている法案です。
 今回の「派遣法」の「改悪案」を絶対に許してはいけません。一生派遣法案に,ぜひ反対の声をあげましょう。

ワーカーズネット講座 第28回「店長だから残業代は支払われない??「管理監督者」制度の罠」


管理職になったのに給料ダウン!?
ファーストフード店の店員が、店長を任せられ、今まで以上に仕事も忙しくなったのにもかかわらず、店長だからという理由で残業代が支払われなくなり、収入は店員時代より減少してしまった。こんなことってありなの??
これは、「管理監督者」に該当するとして、労働基準法の一日8時間、週40時間以上働いた場合に残業代支払い義務が発生する規定の例外扱いとなることで起きることです。
店長や部長などの○○長という役職名がつき、管理職になった場合は、もう残業代は支払いを一切受けられなくなってしまうのでしょうか。
「管理監督者」にあたるのは
「管理監督者」に残業代が支払われなくなるのは、
経営側と一体的地位にある管理職であれば、誰かに労働時間を管理されることなく自分で自由に労働時間を決められるし、残業代を支払わなくてもそれに見合った手当が支払われるから不当に搾取されることもないという理由から、管理職には残業代を支払わなくてもいいとされています。

労働法を悪用するブラック企業
しかし、このような労働法の定めを悪用しようと悪知恵働かせるのが、ブラック企業の手口です。
名ばかり店長、名ばかり部長など、「あなたは管理職ね」と、役職名だけ管理職にして、実際は管理職とは言えないような権限しか与えられず、自分で自由に労働時間を決めることもできず、待遇も悪い場合も多々あります。
裁判例では、マクドナルドの店長が、管理監督者にあたらないと判断されたケースもあります。役職名にかかわらず、実態が重要なのです。
おかしいとおもったら、専門家に相談しましょう!

ワーカーズネット講座 第27回「 5月1日はメーデー。」


メーデーは、そもそもアメリカの労働者が8時間労働制をもとめてストライキに立ちあがったのが始まりです。
1886年(明治19年)5月1日。
長時間労働に苦しめられていた労働者が
「仕事に8時間を、休息に8時間を、おれたちがやりたいことに8時間を!」
というスローガンを掲げました。
ストライキに立ちあがったのは、約38万人といわれています。
闘いの結果、8時間労働制を約束する企業が増えていきました。
しかし資本家も、権力を使ったり、マスコミを使って様々な形で
労働者や労働組合に大弾圧を行っていきます。
アメリカの労働者は、ますます団結を強め、国際連帯を広め、
世界の労働者が51日に集会やデモを行いました。
これがメーデーの歴史です。
世界で初めて8時間労働を国として導入したのはロシア革命後のソ連です。
その後ILO第1回総会(1919年)、「1日8時間・週48時間」労働制を第1号条約に定めました。
メーデーは人間らしく働くための闘いの歴史だったのです。
今ある8時間労働制は、こうした労働者と労働組合の闘い、抵抗運動があったからこを確立しました。
しかし今、この制度を揺るがす重大な法律が通ろうとしています。
高度プロフェッショナル制度、いわゆる残業代ゼロ法です。
4月に閣議決定されました。
財界はさっそく声明をだし、
「世界トップレベルの雇用環境・働き方の実現に向けた第一歩として評価する。」
まったく意味不明な、内容の抽象的な都合の良いものです。
財界にとっては「世界トップレベル」の安上がりに使える制度であることを表明したということでしょう。
「働き方」と「働かせ方」は常に対立するものであり、
それは使用者と労働者の力関係できまります。
労働者の側の抵抗がなければ、
ズルズルと使用者の都合の良い制度が
法律として成立してしまいます。

今こそ働く仲間が立ち上がるときです。
反対の声をあげるときです。

ワーカーズネット講座 第26回「 ~懲戒解雇の仮面を被った,育休を取得したことを理由とした解雇~」


Y弁護士:声の大きい弁護士。最近,ベルトの上にふてぶてしく乗ったお肉と闘うべく,筋トレらしき運動をしている。
F:Y弁護士の中学校時代の友人。現在,育休中。
川崎の某居酒屋にて。
F「美味しいな」
Y「でしょ。ここは,野菜炒めとお刺身とお酒が美味しいんだよ。もぐもぐ……
F「中学の頃と比べて,太ったよな?」
Y「うぐっ。……でも,身長も伸びてるんだよ」
F「ふーん,それで何センチ伸びたの?」
Y「……5㎝くらい……はい,すいません,間違いなく太りました」
F「まぁ,そんな君のベルトの上にふてぶてしく乗っているお肉事情なんかどうでもいいけど,ちょっと,相談したいことがあるんだけどいいかい?」
Y「なんだい?」        
F「今,俺,育休中なんだけど,上司からLINEで『君は,男性なのに育休を取った上,その期間も長いし,今後のキャリアアップを考えたら辞めた方がいいと思うんだけど』っていうメッセージが送られてきたんだ」
Y「ほう」
F「それで,『辞める気はありません』って返信したら,数日後,突然会社から,手紙が届いて,『貴殿の行為は懲戒事由に該当する』ので,2015年4月27日付で,懲戒解雇する』と書いてある文書が届いたんだ」
Y「どんな行為が懲戒事由にあたるって書いてあったの?」
F「無断欠勤が2回あったことが懲戒事由にあたるって書いてあったけど」
Y「実際に,そんなことはあった?」
F「2回休んだことがあったけれど,どちらも事前に会社に連絡したよ。1回目は,母が急に倒れてしまって救急車で運ばれてしまったので休む旨,2回目は,食あたりで病院へ行くので休む旨,説明したよ」
Y「休んだことで,会社から処分とか注意とか受けた?」
F「いや全く」
Y「それはいつの話?」
F「もう5年も前のことだよ」
Y「他に何か書いてあった?」
F「『貴殿は,育休を長く取得していることもあり,貴殿の自主的な退職を求めましたが,受け入れてもらえなかったので』ということも書いてあった」
Y「F以外の人も,育休取ると懲戒解雇されていたの?」
F「あー,今言われてみると,同期が産休,育休を取得したら,育休明けと同時に懲戒解雇されていたな。後輩も,育休取得したら,退職を求められたって言っていたけど,やっぱりこれってなんか変だよね。」
Y「そうだね」
F「そもそも,俺のミスって,懲戒解雇されちゃうほどのものなの?」
Y「いや,結論からいえば,解雇は無効になる可能性が高いね」
F「それは,どういう理屈なの?」
Y「育児介護休業法って聞いたことあるよね?」
F「聞いたことはある」
Y「これは,『育児休業及び介護休業に関する制度並びに子の看護休暇及び介護休暇に関する制度を設けるとともに,子の養育及び家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置を定めるほか,この養育又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずることに等により,子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り,もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて,これらの者の福祉の増進を図り,あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする』という法律なんだよね。同法10条では,『事業主は,労働者が育児休業申出をし,又は育児休業をしたことを理由として,当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない』と定めているんだよ。」
F「今回の場合の解雇は,この10条に反するということ?」
Y「そう」
F「これに違反した解雇はどうなるの?」
Y「無効となるんだよ」
F「でも,会社は,懲戒解雇って言っているけれど?」
Y「仮に,育児介護休業法10条違反に該当する事実がなかったとしても,今回の懲戒解雇も無効である可能性が高いね。懲戒解雇といえども,自由にできるわけではなく,労契法15条によれば,懲戒事由,懲戒の種類・程度が就業規則に明記されていなければならない上,労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当し,それが『客観的に合理的理由』であって,『社会通念上相当』と認められる場合でなければ,無効となるんだよ。今回の場合,そもそも就業規則に懲戒事由がきちんと定められているかという問題がある上,懲戒事由に該当する行為もなかったようだし。仮にあったとしても,懲戒解雇をするほどの相当性もないよね」
F「なるほど」
Y「実態として,懲戒解雇を装った,育休を取得したことによる解雇だね」
F「闘って解雇を撤回させたい……んだけど,お金が続くか不安なんだよね」
Y「相手方の出方とこちらの希望次第だけど,労働契約上の権利を有する地位を仮に定める『地位保全仮処分』と賃金の仮払いを求める『賃金仮払い仮処分』を申し立てる方法,労働審判手続の利用などの方法が考えられるね。他にも,雇用保険から基本手当を仮に支給される『仮給付』の申請などが考えられるけど,本件だと,会社が懲戒解雇だと言っているので,仮給付だと3か月の給付制限に引っかかる可能性があるけど。」
F「いろいろな方法があるんだね」
Y「今度,事務所で相談に乗るよ。ところで……
F「なんだい?」
Y「なぞかけを思いついたんだ」
F「藪から棒になんだい。まぁ,言ってみなよ」
Y「昔ヤンチャだったおじいさんと掛けまして,労働者側弁護士に訴訟を起こされたブラック企業と説く。その心は?」
F「……わからん」
Y「どちらも回顧/解雇して後悔します」
F「……回顧と後悔って若干意味被っていない?」
Y「……

つづく

ワーカーズネット講座 第25回「 ~よく聞く「管理監督者」って,なんだろう??~」


1 はじめに
 ワーカーズネット講座第1回でもご説明しましたが,1日8時間以上もしくは1週40時間以上働いた場合には,原則として,残業代が支払われます。
 しかし,労働基準法上,その労働者が「管理監督者」にあたる場合には,使用者は,残業代を支払わなくてよいことになっています。そうすると,この「管理監督者」にあたるかどうかは,労働者にとって,とっても重要ですよね。
 今回は,この「管理監督者」について,ご説明します!
2 そもそも,どうして「管理監督者」には,残業代を支払わなくていいの??
 それは,そもそも,どうして1日8時間以上もしくは1週40時間以上働いた人に対して,使用者が残業代の支払いを義務付けられているかに深く関係します。それは,かんたんに言うと,労働者が使用者から,過度な労働を課されて酷使されることを防止し,労働者を守るためです。
 そして,下で詳しくご説明しますが,法律上の「管理監督者」は,使用者にかなり近い地位の人を想定されています。ですので,自分の労働時間については自分で管理することが許されるくらいの地位や権限が認められていますし,その地位に見合ったある程度いい待遇(給料など)もされています。このため,「管理監督者」にあたるような人は,過度な労働を自分で防止できるのです。
 このように,「管理監督者」は,使用者に「残業代」の支払いを義務付けなくても,自分で働き過ぎを防止できるので,例外的に,「残業代」を支払わなくてもいいことになっているのです。
3 じゃあ「管理監督者」って,どんな人があたるの??
  よく使用者が使う方法の例として,「うちは店長が管理監督者になっているから,店長の君には残業代が出ないよ。」といったものがあります。
 しかし,法律上の「管理監督者」にあたるかどうか,要するに,使用者が残業代を支払わなくていいかどうかについて,使用者が自由に決めていいはずがありません。言い換えると,会社がいくら,「君は管理監督者だ。」と言っても,残業代を支払わなければならないかどうか,法律上の「管理監督者」にあたるかどうかとは,まったくの別問題なのです。
 では,「管理監督者」には,どのような人があたるのでしょうか。それは,裁判例で,次のような要件を充たす人だとされています。
経営自体に関係するような,重要な職務と責任を有している
出退勤をはじめとする勤務のしかたについて,裁量権を有していること
給与等について,一般の労働者に比して優遇されていること
 どうでしょうか。をみてみると,会社の経営に関係するような職務を負っている必要がありますが,これはかなり高い地位にいる人のことですよね。
 も,例えば「昨日夜遅かったから,今日は遅く出勤しよう。」といったことが,自由にできないと,あたりませんよね。
 も,一般の従業員と変わらないお給料でしたら,あたりません。

4 最後に
  大事なのは,会社が言うことがすべて正しいわけではないということです。会社が,「君は管理監督者だから,残業代が出ないよ。」と言っても,上のように,「管理監督者」にあたる要件は,とっても厳しいものです。
 もし,会社から「管理監督者」にあたるとされ,残業代が支払われていない方がいらっしゃいましたら,上の要件にあてはまるか,じっくり確認されることをぜひともおすすめします。
 「あたらないかもしれない・・・」と思った方は,私たち,もしくはお近くの労働基準監督署,その他専門家などにご相談なさってください!!

ワーカーズネット講座 第24回「 ~「辞めろ」は止めろ!退職強要は違法 ~」


会社から辞めろと迫られて苦しい
会社の経営悪化でリストラが必要になった。
会社でミスをしてしまった。
上司とケンカをして疎まれるようになってしまった。
こんなことが原因で、会社から辞めろとしつこく迫られて、苦しんでいる人はいないでしょうか。
今回は、そんな退職強要がテーマです。
会社から一方的に通知される解雇と違い、あくまで労働者の意思での退職をさせようとする退職強要の場合、その分、執拗かつ陰湿になされることが多いです。
会社は、これまでのミスをあげつらい、会社にあなたは不要だということを繰り返し伝える、さらには人格否定の言葉を浴びせ続けます。
そして、労働者に自信を失わせ、精神的にボロボロにさせて、心を折って、会社を去らせようとします。
退職強要の違法性
会社が労働者に対して任意で退職を求める行為は、それ自体禁止されるものではありません。
しかし、退職勧奨の手段・方法が社会通念上の相当性を欠くとして、不法行為となり損害賠償請求が認められた事案は多くあります。
退職強要で心が折れてしまいそうだと思ったときは、あきらめずに、まずは弁護士など専門家に相談しましょう。多くの場合は、弁護士が退職強要をやめるよう求めた内容証明郵便を送るだけで、とりあえず退職強要はやみます。
他にも、例えばこれまで会社で技術者として専門的な仕事をしていたにもかかわらず、会社の受付の仕事をさせられるなど、あきらかに退職させることを目的とした左遷的な職場配転も、無効になります。

退職届を出した後でも間に合う
また、追い詰められて退職届を出してしまった場合でも、まだあきらめないでください。上司に出しても、人事部長などに渡るまでは撤回できます。また、会社に正式に退職が受諾された場合でも、何時間にもわたり退職の面談を受け混乱して出してしまった場合など、事後的に錯誤、脅迫無効を主張できる場合もあります。
「辞めろ!」は止めろ!という気持ちを持って、専門家に相談し、すぐに対処しましょう。

ワーカーズネット講座 第23回「 ~ハラスメントについて~」


国会の審議では、ブラック企業対策について一定の対策がとられる方向で話が進められています。
「企業名の公表」についての検討や特別チーム「過重労働撲滅特別対策班」の設置などです。
ブラック企業やブラックバイトだけでなく、今、企業、公務、団体、医療・福祉現場問わず、あらゆる職場で「いじめ」「ハラスメント」が社会問題化しています。
神奈川労働センター発行の労働手帳では、
職場のハラスメントは相手の尊厳や人格を傷つけ、健康を害し、自殺に至る場合もある
また単に当事者の個人的な問題ではなく、ハラスメントを行った本人はもちろん、問題と放置していた場合は組織責任を問われることがあるとしています。
[相談事例] 
上司から3時間にわたり密室で叱責を受け、翌日から適応障害で求職。会社とは、復職も退職も話しあいが困難。
同僚の仕事ぶりに不満、改善を求めたが、逆に上司から退職を勧奨するようなパワハラ的言動をされた。
上司からの叱責、性格についての不快な発言などから体調が悪化し、契約を更新しないと通告を受けた。
こうしたパワハラは、実はいろんなところでおきているのではないでしょうか。
相談事例にあるように、退職に追い込むために意図的にパワハラが行われているということもあります。
問題を知りながら、上司や同僚が放置していることも多く、というより圧倒的多くが放置されています。
あらわれ方は、学校などでおきているいじめと大きな差はなく、学校での関係性がそのまま職場の関係性に引き継がれていると思われます。歪んだ人間関係が学校の集団、職場の集団、さらにはサークル的な集まり、スポーツチームの中、ありとあらゆる集団の中での「いじめ」「ハラスメント」が横行し、国そのもの将来を憂うような深刻な状態にあるのではないでしょうか。
職場のパワハラの問題は、
1に人格権の侵害です。
2に職場環境の悪化をもたらし業務遂行の障害となります。
3に能力の発揮を妨げ、人材の流出につながります。
パワハラについては法律の定義はありませんが厚生労働省では、
「パワハラは、同じ職場で働く者に対して、業務上の地位や人間関係、専門知識などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を越えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為です。」
「上司と部下の関係だけでなく、先輩や後輩、同僚間などに対して行われるものも含まれます。」
[対応として]
企業などでは、社内の相談窓口
同僚や上司への相談
労働センター等への相談
となっていますが、大企業などではリストラ推進の武器がパワハラであったりします。
中小企業にはそもそも相談窓口もないでしょうし同僚や上司も信用ならない場合も多いことと思います。
[有効な対応として]
労働組合が行っている(御用組合ではない)相談窓口
労働弁護団が行っている相談窓口
そして、もちろん私たちワーカズネットにご相談ください。

ワーカズネットの活動を今後発展させていき、活動そのもの中で「パワハラ」と対峙した「豊かな人間関係」をつくっていきたいと考えています。