2016年6月24日金曜日

ワーカーズネット講座 第34回「 仕事上のミスを理由とする損害賠償 ~会社から「辞めたら損害賠償するぞ」と言われた~」


Y弁護士:夜になると顔色が悪く(=青く)なる弁護士。同じ事務所の姉弁からお土産に天然素材の脱毛クリームをもらう。
Z:Y弁護士の母校の後輩。現在,飲食店でアルバイトをしている。
※ ある川崎の鰻屋にて。
Y「ここの鰻屋さん,美味しいでしょ?」
Z「はい」
Y「川崎で一番美味しいと思うね。思わず『無類である』とつぶやきたくなってしまう」
Z「そうですね」
Y「君の微笑をたたえた表情が鰻の美味しさのすべてを物語っているよ。嫌みにならない程度にほどよく乗っている脂,泥臭くなく,ふっくらとした身,鰻そのものの素材を生かすタレが脂とともに相互に高め合って・・・・・・」
Z「Yさん」
Y「なんだい?」
Z「なんだかんだで,Yさんがすべてを物語っていますよ」
Y「・・・・・・。それはともかく,相談ってなんだい?」
Z「私,今大学2年なんですが,司法試験を目指して,本格的に勉強をしようと思っているんですよ」
Y「ほう」
Z「それで,大学1年からやっている飲食店のアルバイトを辞めようと思って,店長に来年の3月に辞めると伝えたんですよ」
Y「うんうん」
Z「すると,店長が『君が辞められたら困るんだよねぇ・・・・・・せめて大学卒業するまでは働いてよ』って言ってきたので,私は,断ったんです。断ったら,突然店長が激昂して『君がどうしても辞めるんだったら,これまで割ったコップ,お皿の損害賠償請求するから覚悟しておけ』って言われたんです。」
Y「どういう状況で,食器を割ったの?」
Z「通常の食器洗いの際に,いくつか割ってしまっていて,他の人と差はないと思います。店長も,特に,食器を割っても弁償しろとか言ってきませんでしたし,実際に,請求されたことはありませんでした。バイト先の今も働いている友達や辞めた友達にも聞いたんですが,誰も請求されたことはなかったと言っています。」
Y「なるほど」
Z「民法の講義(不法行為法)で習ったんですが,やっぱり,過失があるから損害賠償しなければならないんですよね?」
Y「いや,そうとも限らないよ」
Z「えっ?! 本当ですか?」
Y「今まで,嘘のこと以外は本当のことしか言ったことがないから間違いないよ」
Z「そうなんですね……って当たり前の事じゃないですか」
Y「ごめんごめん」
Z「それで,損害賠償しなければならないのは,どうしてですか」
Y「些細な不注意,たとえば,飲食店で食器を割ったり,釣銭を多く払いすぎてしまうことは,日常的に,一定の割合で発生するものでしょ」
Z「はい」
Y「使用者は,そのようなことは当然予見できるものだし,労働者を使って利益を上げていることから,そういった労働過程上の軽過失によって生じる損害というリスクは,労使関係における公平の原則から使用者が甘受すべきだと考えられるんだよ」
Z「へぇー,そうなんですか。そうすると,わざと損害を与えたり,不注意の程度が重いと損害賠償責任を負うことはあるんですか」
Y「鋭い質問だね。まず,窃盗や業務上横領等の犯罪をして損害を与えた場合などは,全額について賠償義務を負う可能性が高いね。他方,重過失,すなわち,不注意の程度が重くても,損害の公平な負担という見地から,一定限度に限って賠償を認めるのが大半で,全額賠償を認めることはほとんどないね。」
Z「なるほど。どういった点に着目して,判断されるんですか」
Y「一概にはいえないけれど,①労働者の不注意の程度,②使用者側が労働者に対してどの程度教育・訓練したか,どれくらい業務命令を周知させていたか,保険の有無などの管理体制の内容,③労働者の資力や労働条件の劣悪さといった労働者の置かれた状況などが考慮要素だと考えられているね」
Z「そうなんですか。そうなると,私の場合は……」
Y「話を聞く限り,損害賠償責任は負わないだろうね」
Z「これで安心してご飯が食べられます」
Y「街角で無料労働相談をしていると,学生さんから,そういった相談を受けるね」
Z「そうなんですね」
Y「他にも,大学生から『労働組合って何ですか?』という質問を受けたことがあるね」
Z「私自身も,きちんと理解しているかといわれると……」
Y「多くの人は労働者になるのだから,自らの身を守るためにも,そして使用者になる人も,労働者の権利を侵害しないためにも『ワークルール』をしっかり学ぶ必要があるね」
Z「そうですね。実感しました。でも,なかなか,学ぶ機会がないような気がするんですが」
Y「鋭い。たとえば,『残業代ゼロ法案』の問題の前提となっている,労働時間規制について,育鵬社の中学校の公民の教科書では,『1日8時間労働制』としか記述されておらず,どのような内容なのか,どうして規制されているのかなどについて,全然書いてないんだよ」
Z「へぇー,そうなんですか?」
Y「このようにワークルールを十分に教えない一方で,『職業には責任がともないます。責任を果たしていくには,ときには苦労や忍耐も必要になります』という記述があるんだよ。権利を十分に教えないまま,責任,苦労,忍耐の必要性を説くことで,労働者が自らの権利が蹂躙されているのに気が付かずに,責任,苦労,忍耐の掛け声の下,労働者が追い詰められていき,過労死,過労自死,精神疾患の発症などを招いてしまうんだよ」
Z「そうなんですね。私もこれを機にいろいろ勉強したり,友達に話してみます」
Y「そうだね。まず,自分の周りの出来事に対してアンテナを張って,何かおかしいと思ったら,調べたり,いろいろと議論したりして,必要であれば,行動に移すことが大切だね」
Z「わかりました。あっ,今,私おかしいことに気が付きました」
Y「ん,なんだい?」
Z「Yさんは,日本酒をたくさん飲んでいますが,私はお酒を飲まないから,もっと鰻を注文しないと,飲食代の『公平な分担』になりませんよね,すみません『白焼』ひとつください」
Y「……(おごるんだからそこは……)」
続く

2016年6月8日水曜日

ワーカーズネット講座 第33回  ~マタハラに対抗するための基礎知識~


1 はじめに
  はたらく女性が,妊娠や出産をきっかけに使用者から不利益な扱いを受けてしまった,いわゆるマタニティハラスメント(マタハラ)に関するご相談をよくお受けします。ですので,今回は,マタハラに対抗するために,女性を保護するための法律知識をご紹介します。
2 産前産後の休業
 使用者は,6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には,その女性を働かせてはいけません。また,使用者は,産後8週間を経過しない女性を働かせてはいけません。
 このような産前産後の休業期間及びその後の30日間は,使用者はその女性労働者を解雇することが禁止されます。
 そして,産前産後の休業をしたことそれ自体を,昇給や昇格・ボーナス算定上,不利益な資料とすることは,違法です。
3 育児休業など
 ①1歳未満の子を養育する労働者は,その子が1歳(場合によっては1歳6カ月)になるまでの期間,育児休業を取得できます。
 ②小学校入学前の子を養育する労働者は,使用者に,残業の制限や深夜業の免除,勤務時間短縮などを求めることができます。
 ③これらの制度を使ったことを理由として,使用者が,解雇や更新拒絶,減給といった不利益な取り扱いをすることは,違法です。
4 終わりに
  以上のような法規制に反する,違法な措置を使用者が行ってきた場合には,1人で悩まず,私たちワーカーズネットや弁護士,労働組合等に,すぐにご相談ください!!

2016年6月4日土曜日

ワーカーズネット講座 第32回「命をも奪う、若者の働かされ方の現状と司法の役割」


≪新卒過労事故死裁判 原告代理人の意見陳述より≫
■ 第2回裁判期日:7月23日(木)■
10時00分~ 裁判期日 横浜地方裁判所川崎支部第1号法廷(教育文化会館向かい)
10時20分~ 報告集会 川崎教育文化会館 第三会議室
以下、第1回意見陳述で原告代理人が裁判所に述べた意見陳述です。
第1 事件の概要 
  本件は、被告会社グリーンディスプレイ(以下、「グリーンディスプレイ」といいます。)が安全配慮義務に違反し、渡辺航太さん(以下、「航太さん」といいます。)に長時間労働を強いて疲労を蓄積させた結果、職場からの帰宅途中に事故死した事件であり、遺族原告がグリーンディスプレイに対して損害賠償請求を求めて提訴しました。
1 グリーンディスプレイにおける長時間・不規則深夜労働 
航太さんは、グリーンディスプレイにおける就労開始当時から、長時間におよぶ不規則深夜労働を強いられて、疲労が蓄積していました。
(1)長時間労働
航太さんは、2013年10月、アルバイトとしての就労開始当時から、週6日フルタイムでの勤務を要求され、1週間連続勤務となることもありました。時間外労働は、100時間を超すこともあるなど、長時間労働は常態化していました。
厚生労働省は、時間外労働が1ヶ月あたり45時間を超えるときは労働者を疲労を蓄積させ、健康を損ない、長期間に渡るほど、過労死として認定されるとの基準を示しています。航太さんは、6ヶ月以上にわたり、過労死に陥り得る過酷な就労環境に従事していました。
(2)不規則深夜労働
さらに、航太さんは、深夜早朝に及ぶ不規則労働に従事していました。これは、航太さんが、日中行われる水やりなどの作業の他、百貨店などの顧客店舗内で草花・観葉植物の設置や飾りつけをするなどの顧客店舗の営業中にはできない作業に従事させられており、営業終了後、深夜から早朝にかけて作業させられていたからです。なお、試用期間中のアルバイトとされていた航太さんは日中から深夜早朝に及ぶ不規則労働に従事させられていましたが、裁判を準備するための調査の中で、他の正社員は日中または深夜早朝の規則的なシフトが組まれていたことも分かりました。航太さんはグリーンディスプレイの従業員の中でも特別過重な労働を強いられていたのです。
徹夜の作業のため、業務終了時間が深夜早朝にわたる時は、電車などの公共交通機関が運転していませんでした。そのため、航太さんは、徹夜労働の後、さらに睡眠時間を削り、1時間かけて原付バイクを運転して帰宅せざるを得ませんでした。
不規則深夜労働は、人間固有の「サーカディアンリズム」という生活リズムに反し、疲労が蓄積しやすいため様々な健康被害に陥りやすいもで、厚生労働省の過労死認定基準でも、考慮要素とされています。
先輩たちは、航太さんに対して、「手がもげても足がもげても働け」「さすが平成生まれだね」など厳しい言葉を浴びせかけました。
それでも、航太さんが、グリーンディスプレイにおける過酷労働に無理をして従事していたのは、正社員としての試用期間として位置づけられていたからです。就職難のなか、航太さんは、正社員として採用してもらうために、無理をして過酷労働に従事し、その結果、恒常的に疲労が蓄積していました。
2 グリーンディスプレイにおける労働と本件事故の因果関係があること
  グリーンディスプレイで就労を開始して半年後、2014年3月に、航太さんはようやく正社員として採用されましたが、長時間不規則勤務は続きました。特に本件事故前日の4月23日から、事件当日の翌24日の朝までは、航太さんは約22時間もの長時間勤務に従事しました。
2014年4月24日午前9時12分頃、航太さんは、横浜にあるグリーンディスプレイの事務所から、東京都稲城市の自宅へ、原付バイクで帰宅途中、川崎市麻生区の路上で、電柱に衝突しました。そして、脳挫傷、外傷性くも膜下出血の傷害を負い即死しました。本件事故現場は、見通しの良い直線道路であり、路面は平坦なアスファルトで、乾燥していましたが、航太さんは、左右への回避措置や制御措置を全くとならないまま電柱に衝突したことが分かっています。
航太さんは、グリーンディスプレイの下で、6か月に渡り長時間業務に従事しており、本件事故の1ヶ月前も、徹夜勤務により、時間外労働時間は80時間を超え、疲労が蓄積していました。さらに、本件事故直前の3日前、2日前も、長時間勤務が続いており、最低限の睡眠時間すら確保するのが難しいほど長時間労働に従事していました。さらに、本件事故直前は、24時間近い徹夜勤務の後、睡眠をとることもできないまま、原付バイクで帰路についたのです。
以上の経緯から、航太さんは、本件事故直前、極度の心身の疲労と睡眠不足の状態にあったのは明らかです。その結果、航太さんが、原付バイクを運転して帰宅する途中、睡眠不足や過労から注意力低下、居眠り等の状態となり、本件事故が起きたのです。
3 グリーンディスプレイの安全配慮義務違反
 会社は、労働者の生命及び健康を危険から保護するように配慮する義務、すなわち安全配慮義務を負っています。
グリーンディスプレイは、航太さんの勤務シフトを作成していました。そのため、グリーンディスプレイは、航太さんが連日深夜に及ぶ業務に従事し、深夜早朝に及ぶ場合は、航太さんが原付バイクで片道約1時間通勤せざるを得ないことを認識しており、過労状態・極度の睡眠不足が原因で本件事故を発生しうることは、十分予測可能でした。
したがって、グリーンディスプレイは、航太さんが極度の睡眠不足になることを予見し、業務の軽減を図るなどの適切な措置を講じることにより、航太さんが極度の疲労状態、睡眠不足に陥ることを回避すべき安全配慮義務を負っていました。
しかし、グリーンディスプレイは、企業利益追求を優先し、安全配慮義務を怠った末、航太さんを死に追いやったのです。
グリーンディスプレイの加害責任は明らかです。
第2 本裁判の意義と司法の役割
1 遺族のグリーンディスプレイに対する加害責任の追及
  本裁判は、未来の希望にあふれた若者であった、航太さんのかけがえのない命が一瞬で奪われた、凄惨な事件です。ご遺族原告の悲しみは計り知れません。奪われた命は、戻ってきません。遺族原告は、本訴訟において、航太さんの命を、お金に変えることを望んでいるのではありません。お金で済む問題ではないのです。
それでも、遺族原告が提訴を決意したのは、決して消えることのない喪失感の中、グリーンディスプレイの加害者としての責任を明らかにし、航太さんの無念を晴らし、航太さんと共に前に進むためなのです。裁判所におかれては、失われた航太さんの命の重み、遺族の決意を受け止めて頂くようお願いします。
2 労働者の非正規化と行政の規制の怠り
 加えて、本件提訴は、昨今社会問題となっている若者の雇用問題が背景にある事件として、提訴時から社会的注目を受けています。
  本件事故の背景として、労働者の非正規化があります。労働者の非正規化が進む中、若者は正社員としての就職を切望しています。グリーンディスプレイは、このような若者の気持ちを利用し、試用期間であるとしてアルバイトとしての就労を求め、長時間過酷労働に従事させ、使い捨てたのです。本件事故の背景には、雇用形態の非正規化の進行と、若者の就職難があります。
  また、労働行政の怠慢も、本件の背景にあります。航太さんは、グリーンディスプレイのハローワークの求人票を信頼し、応募したところ、求人票の記載とは全く異なる過酷な労働に従事させられることとなりました。すなわち、求人時に、企業から労働者に対し、虚偽の情報提供がされており、公的機関であるハローワークがそのような虚偽記載を放置したことが原因で、航太さんのような犠牲を生みました。
以上、労働者の非正規化の中での若者の就職難と、企業による若年労働者の使い捨て、そしてこれに対する労働行政の対策の怠慢という、昨今のいわゆる「ブラック企業」問題の被害の極限が、本件なのです。そのため、本裁判は、広く社会的注目を受けています。
3 過労死事件における司法の役割
航太さんの従事していた長時間労働及び深夜不規則労働は、過労死認定基準に該当するほどの過重労働であり、過労の蓄積の結果、事故死に至たりました。本件は、企業の経済的利益追及によって、労働者の命が奪われてしまった過労死事件として位置づけられます。
「過労死」救済の歴史において、これまで司法が果たしてきた役割は大きいものです。労働行政が、企業の横暴による労働者の「過労死」の救済をなかなか認めないなか、司法が、労働者の命に真摯に向き合った判決を下すことによって、国による救済と対策の道が切り拓かれてきた歴史が、「過労死」の歴史です。そして、長い闘いの末、ようやく昨年、過労死対策の基本法として、過労死等防止対策促進法が成立しました。
現在のところ、過労死等防止対策促進法の対象とする「過労死」は、脳・心臓疾患と、精神疾患による自殺であり、本件のような過労事故死は含まれていませんが、過労事故死は、調査研究の対象とされ、調査の結果によっては、今後の対策が取られる可能性があるものとされています。
近年も、大学病院の医師であった大学院生が帰宅時に交通事故死したという事例において、その原因は過労であったとして、大学病院の安全配慮義務違反が認められた裁判例がありました。このような先例に加えて、本裁判の帰結によって、過労事故も含めた過労死対策を強化させるものになり得るものです。
裁判所におかれては、航太さんの命の重みに真摯に向き合い、本裁判の社会的影響を踏まえて、2度とこのような悲劇を繰り返さないため、司法としての役割を果たすべく審理されるよう切望いたします。
          以上

ワーカーズネット講座 第31回「命をも奪う、若者の働かされ方の現状」



≪新卒過労事故死裁判 遺族の意見陳述より≫
 
「航太は大学の夜間部に通い、働きながらの大学生活を送り卒業まで6年かかりました。在学中も就職活動は行っていましたが、現状は厳しく、卒業してからもバイトをしながら就職活動をしていました。しかしなかなか面接までたどり着けません。私はハローワークの求人なら安心だろうとアドバイスしていました。
重視しているのは、労働時間と「夜勤」のないこと、マイカー通勤不可であることでした。私は介護の仕事をしており、夜勤での車やバイクでの通勤は、どんなに気をつけても危険であることを良く知っていました。
今になって思うのは、求人票に真実が記載されていれば、私はこの会社を絶対に選ぶことはなかったということです。」
「私が勧めたグリーンディスプレイの説明会に航太は参加しました。仕事の内容は、大手デパートやお店むけに、主に植物をディスプレイする仕事でした。航太の興味あるもので、就職したい気持ちは膨らんでいったようです。
航太は最終面接に進みましたが、合否の知らせはありませんでした。ただ面接では、試用期間としてアルバイトの誘いがあったため、航太は正社員として働くことを期待して、10月からアルバイトを始めました。そしてクリスマスシーズンに向けて大変忙しく働きました。」
「航太の仕事は、翌年の平成26年のお正月・バレンタインデイ・ホワイトデイとイベントごとに忙しくなり、私との生活時間もすれ違いとなり、話す時間も無くなっていました。どんどん航太が疲れた表情になっていくのがわかりました。」
「このような状態にも関わらず、会社から内定通知が届かないことに不安は大きくなり3月になってもアルバイトのままだったことから、次を探し始めたところ、突然上司から口頭で“3月16日から正社員に採用、現状の部署に配属する”と言われました。しかしその後書面での通知もなく、雇用契約書も就労規則もないことを私は不審に思っていました。」
「小さいころからほとんど愚痴を言うことのない航太でしたが、
会社の先輩に、
「平成生まれはあまいな~」
「辛いとか嫌だとか直ぐ顔に出る奴だ、いつも笑ってろ!」
「手がもげても、足がもげても働かなきゃいけない」
パワハラを受けていることを話してくれました。
そんなことを気にする人間ではなかったため「何故?」と心配になりました。
今思えば、もう疲れ果てて本来の前向きな航太ではなく、ぎりぎりのところで私に伝えたかったのでしょう。」
「正社員になっても航太の仕事内容は変わらず、求人票のシフトとは大きく違いました。大好きな仕事を見つけた喜びも失望・諦めに変わりはじめ、航太は、5月の連休に時間をつくってもう一度今後の仕事について私と話しをする約束をしました。」
「亡くなる一週間前には、私が食事の準備をしても、航太は食べなくなっていました。」
「最後に航太を見た4月22日の朝は、服を着たまま布団もかけないで寝ていました。私は布団をかけてやり、軽く身体をゆすりましたが、起きませんでした。これ以上起こすのも忍びなく、まさかこの日も働かされるとは思ってもいませんでしたので、
私は、航太に「ゆっくり寝て、身体を休めて。そうじゃないといい仕事はできないよ」
「身体を壊しちゃうよ。今日は一緒に夕飯を食べようね。」と声をかけました。
やはり返事はありませんでした。
いつもなら「わかった、お母さんいってらっしゃい、気を付けてね!」と寝ぼけながらも必ず返してくれましたが、全く反応はありませんでした。そのまま眠って欲しかったので起こさず、私は出勤しました。
「航太がバイク事故で亡くなった」と私が聞いたのは4月24日の朝、仕事で移動中の電車の中でした。携帯電話に異常な数の着信が入ったので途中下車して訃報を聞きました。
その時にはもう航太は病院から警察へ移送されるところでした。
電車のホームで「病院へ戻して!航太を直して!病院へ!航太はもっともっと生きたいのよ!お願いします!お願いします!」と
大声で携帯電話に向かって叫んでいました。」
「最愛の息子を亡くして約1年が経ちます。まだ亡くなったことが信じられません。航太の帰りを私は毎日毎日待っています。」
「求人票を信じた私のせいであり、航太の正社員になりたいという希望と、母親を安心させたいという気持ちが航太の人生を終わらせてしまったのではないか。できることなら航太と変わってやりたい。」
「グリーンディスプレイは全てがでたらめで、まじめに働こうとする人間を軽視しています。雇い入れておきながら通勤方法や通勤時間、睡眠時間など配慮がなく、仮眠室もきちんと整備されていませんでした。航太が亡くなってからも線香をあげるでもなく、お墓の場所を聞いてくるでもありませんでした。短期間バイトしていた人間が事故を起こして、亡くなった。それだけのことなのです。」
「ハローワークの求人票と実際の労働条件が違うことを問い詰めても“求人票通りの会社はない”言われました。嘘の記載があったにも拘わらず信じてしまった方が常識はずれといわんばかり。何を信じて就職先を選べば良いのか。」
「グリーンディスプレイは、都会の有名店でお客様に夢を売る仕事に携わっていながら、裏では人間を人間扱いしない会社です。私は、街に出てそれらの装飾も見るのがつらいです。」
「航太は“好きな仕事に巡り合えたのだから幸せじゃないか”と自分に言い聞かせ、
夢を力に変えて、最大限努力していました。
そんな人間の命までも奪うほどの利益優先の企業体質は許しがたいです。」
「今後、就職する若い方のためにも、この裁判では、おかしなものはおかしいと、はっきり認めてもらいたいと思います。」
「航太は、高校卒業少し前から離婚により、私と航太の兄と3人生活となりましたが、忙しい母を手伝ってくれました。大学は夜間を選びアルバイトをしながら母の負担を軽くしてくれました。最近では親子が逆転し、航太から私の体調を気遣ってくれました。何事にも前向きで、明るく、コツコツ積み上げて行く生き方に自信をもって歩き始めていました」
「私に良く言っていた言葉があります。」
“生きていることは奇跡なんだ。
一瞬一瞬が奇跡なんだよ!
大事に一生懸命生きないともったいない!
せっかくお母さんが、奇跡をくれたんだから!”
[みなさん、裁判の支援をお願いします]