2019年8月2日金曜日

【ワーカーズネット講座第42回 労働基準法上の「労働者」って何?】


Y弁護士:おなじみ,声が大きい弁護士。最近,統計学,疫学,フランス語を勉強中(約10時間の勉強で仏検4級を取得)。
乙:Y弁護士の中学時代の友人。現在,「請負契約」で,映画撮影技師として働いている。

 自宅にて。



Y「この料理美味しいでしょ」



乙「んー,なかなか美味だね。なんだい,このやや黄色がかったチーズみたいで,お餅のようによく伸びる食べ物は?」



Y「これは,『アリゴ』(Aligot)というフランス料理だよ。オーブラックという地方の郷土料理で,ジャガイモ,チーズをベースに,ニンニクやバターやオリーブオイル等入れて,肉料理の付け合わせでよく出されるものさ」



乙「へぇー。『アリゴ』って,芋料理に分類されるの?それとも,チーズ料理に分類されるの?」



Y「んー,両論あるらしいよ。まあ,何を芋料理と定義付けるか,何をチーズと定義付けるか,そして,『アリゴ』はそれらの定義にあたるかどうかなんじゃないかな」



乙「まあ,そうなんだろうね。ところで,ちょっと聞きたいんだけど,いいかい?」



Y「ああ」



乙「俺は,『事業主』なんだろうか,『労働者』なんだろうか?」

※ 川崎のあるそば屋にて。

Y「というと?」



乙「俺は,今映画撮影技師として,働いているんだけど,契約書には『業務委託契約書』と書いてあるんだ。」



Y「ほほう」



乙「でも,全く自由に働いているのではなくて,契約の相手方の会社の従業員から,細かいところまで指示された上で業務をしていて,一度断ろうとしたら,『お前に断る権利なんかない,解雇するぞ』と脅されたことがあったんだ。最初の頃,『こうしたらもっとよくなる』と従業員に言ってみたら,『言われたとおりやってればいい』って言われたんだ。裁量なんてありゃしない」



Y「働く場所や勤務時間も決められているの?」



乙「そうなんだよ。平日週5日,9時~17時,会社のスタジオに行くことになっているんだよ。残業代も出ないのに,他の会社の従業員と同じように,タイムカードを打刻しているんだ。遅刻すると,勝手に報酬から天引きされるし。一度,残業代がないことについて,会社に文句を言ったら,『労働者じゃないだろ,契約書のタイトルを読めないのか,お前は』と叱責されるし」



Y「報酬は,どのように支払うことになっているの?」



乙「1時間あたり2000円支払うことになっているよ」



Y「会社の他の従業員の給料と比べてどう?」



乙「だいたい同じくらいだね」



Y「機材はどうしているの?」



乙「会社が所有している物を使えって言われて,使っている」



Y「他の会社の依頼を受けてもいいの?」



乙「駄目って書いてある。」



Y「乙は,他の人を雇っている?」



乙「まさか」



Y「会社から貰ったお金は,事業所得として自己申告している?」



乙「いやしてない。残業代未払とかで労働基準法に反しているようにも思うんだけど,どうなの?」



Y「結論からいうと,乙は,労働基準法上の『労働者』に当たる可能性が高いね。そうだとしたら,残業代を請求したりできるし,報酬からの天引きも違法になるよ」



乙「そうなのか。でも,『業務請負契約書』って書いてあるけど?」



Y「労働基準法が適用されるかどうかは,形式できまるのではなく,労働基準法でいうところの『労働者』に該当するかどうかによって決まるんだ。『事業』に『使用される』こと及び『賃金』の支払いを受けていることが必要なんだ。」



乙「それってどう判断するの?」



Y「判断要素としては,主に,①仕事の依頼への諾否の自由,②業務遂行の指揮監督,③時間的・場所的拘束性,④代替性,⑤報酬の算定・支払い方法を判断要素とし,補足的に,⑥機器・用具の負担,報酬の額等に現れた事業者性,⑦専属性等を判断要素として判断するんだ」



乙「へえ」



Y「乙の話によれば,仕事依頼に対する諾否の自由がなく,業務の内容や遂行の仕方について指揮命令を受け,勤務の場所や時間が規律されているから,『使用され』ているといえる可能性が高いよね。それに,乙は,会社に専属的に従事しているし,他人を雇用してないし,機器も会社ものを使っているし,事業所得として自己申告してないしね。これらの事情に加えて,額,計算方法,支払い形態において,従業員の賃金と同質の可能性が高く,働いた時間に応じて定められた報酬を受け取っているから『賃金の支払い』といえる可能性が高いね」



乙「なるほど。ってことは,この会社は・・・・・おー!?ブラックか?」



Y「そうそう。今度,資料を持って相談に来なよ」



乙「わかった。でも,なんで労働基準法上の『労働者』に当たりそうなのに,会社は,そうじゃないっていうんだろう?」



Y「それは,本来労働者を守るために定められた労働時間規制などの労働法による規制を免れたいという動機があるからだよ。まったくもって,ひどい話だよ」



乙「ひどい話だ」



Y「他にも,労働者でなければ,社会保険料や消費税の負担を減らせるという動機もあるね」



乙「へえ。まあ,米を使う料理という意味で『米料理』,チーズを使う料理という意味で『チーズ料理』,芋を使った料理という意味で『芋料理』と定義付けた場合,ある人が,アリゴをいくら『米料理』と名付けても,客観的には,アリゴが米を使って料理されず,チーズとジャガイモを使った料理で以上,『米料理』とは認められず,『チーズ料理』『芋料理』と評価されるということと同じだね。」



Y「んー,非常にわかりにくい例えだけれども,自分なりに咀嚼できているようなので,まあいいか。ところで一つ謎かけを思いついた」



乙「なに?」



Y「アリゴの食文化が作られた地域とかけまして,労働基準法上の『労働者』であるにもかかわらず,事業主として働かされていたことを知った人の会社に対する評価と解く。」



乙「その心は?」



Y「どちらも,『オーブラック』です」



乙「・・・・・・ちと,無理やりじゃないか?」



Y「・・・・・・(なかなかネタが思いつかなかったんだよ)」



つづく

NPO法人ワーカーズネットかわさきに参加する弁護士の記事が弁護士ドットコムニュースに掲載されました。

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https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190722-00009912-bengocom-life&pos=5