Y弁護士:ある法律家団体の記事を書くために,とんかつを食べ過ぎたことによる後遺症から脱却すべく,ジョギング等運動をしたいと考えているが,別な意味での「運動」が忙しくて運動できていない自称「へたれぷにょん」。
C:第10回で登場。地位確認とバックペイを求めて労働審判手続を申立てて,解決金をもらって,退職。現在は,ある飲食店で働いている。
C:第10回で登場。地位確認とバックペイを求めて労働審判手続を申立てて,解決金をもらって,退職。現在は,ある飲食店で働いている。
※ とある川崎のとんかつ屋にて。
Y「・・・・・・(もぐもぐ)」
C「先輩?」
Y「・・・・・・ん?」
C「・・・・・・美味しくないですか?」
Y「いや,思わず『無類』と呟いてしまうほど美味しいんだけど・・・・・」
C「あっ,先輩太りました?」
Y「(ぐさっ)うっ・・・・・・いや,気のせいでしょう」
C「だから,そんな切ない顔をしていたんですね,ははは」
Y「笑うなよ」
C「運動したらいいんじゃないですか」
Y「『運動』ならしてるよ」
C「どんな運動ですか?」
Y「戦争法案反対運動,労働者派遣法改悪反対運動……」
C「その『運動』じゃないです」
Y「わかってるさ。でも,法律家としてすべき『運動』が忙しくて,運動ができないとは・・・・・・」
C「まあ,あんまりくよくよしてもしょうがないですから,美味しいとんかつでも食べて元気出しましょう」
Y「そういえば,Cって飲食店で働きだしたんだよね」
C「はい」
Y「どうだい」
C「……」
Y「あんまり,よろしくないみたいだね」
C「ええ……あっ,すみません,キャベツのお替りお願いします」
Y「……やっぱり,そんなことはないかな?」
C「いえ,普段だったら,キャベツの大盛りと味噌汁をお替りするところですから,相当深刻です」
Y「……まあ,それはともかくどうしたんだい?」
C「実は,2か月前の給与明細書を見たら,契約時の基本給から5万円も下げられていたんです・・・25パーセントカットですよ」
Y「会社と基本給を下げる旨の合意をしたの?」
C「いいえ」
Y「就業規則,賃金規程,労働協約の変更とか,懲戒処分があったの?」
C「そういったこともありません」
Y「会社にはなんで下げたか聞いたの?」
C「いえ。でも,勇気のある同僚が社長に聞きに行ったら,『お前たちは,全く持って熱意がない。会社のためにもっと汗水たらして働かんかい。お客様によりよい低コスト・高サービスを提供するためには,お前たちの賃金を下げるほかないんだよ。下げても,払い過ぎているくらいだからな。そんなこと言いに来る暇があったらさっさと働かんかい,このボケ』と恫喝されて,全く持って相手にされなかったと言ってました」
Y「ひどいな」
C「でも,私なんか,何も文句も言えず,すでに2か月分黙って,その額の給料を受け取ってしまったんですよ,あーあ,これってもう争えないんですよね。」
Y「ん? そんなことはないよ」
C「えー,そうなんですか?」
Y「ああ。労基法24条1項本文は,いわゆる賃金全額払の原則を定めているでしょ」
C「はい」
Y「この趣旨は,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る点にあるんだ」
C「そうなんですね」
Y「その趣旨からして,賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は,労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限って有効とされるんだよ」
C「でも,黙っていたら,自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することになって承諾していたことにならないんですか?」
Y「そのように判断した裁判例もあるけど,黙っていても承諾していたことにならない裁判例も多くあるんだよ。例えば,使用者から,賃金を20パーセント減額され,そのまま3年以上減額した賃金の下で就労していた事案において,『労働契約において,賃金は最も基本的な要素であるから,賃金額引き下げといる契約要素の変更申入れに対し,労使間で黙示の合意が成立したということができるためには,使用者が提示した賃金引下げの申入れに対して,ただ労働者が異議を述べなかったというだけでは十分ではなく,このような不利益変更を真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に必要であるというべき』として合意の成立を否定した裁判例をはじめ,黙示の合意があったとは容易に認められないんだよ。」
C「そうなんですね」
Y「今度,事務所に来て詳細に聞くよ」
C「あー,なんだか安心したら,お腹が減ってきました」
Y「まさか,更にキャベツと味噌汁のおかわりをするんじゃないだろうね」
C「いいえ,すみません『ロースカツ定食』をもう一つください! もちろん先輩のおごりで」
Y「・・・・・・」
続く
C「先輩?」
Y「・・・・・・ん?」
C「・・・・・・美味しくないですか?」
Y「いや,思わず『無類』と呟いてしまうほど美味しいんだけど・・・・・」
C「あっ,先輩太りました?」
Y「(ぐさっ)うっ・・・・・・いや,気のせいでしょう」
C「だから,そんな切ない顔をしていたんですね,ははは」
Y「笑うなよ」
C「運動したらいいんじゃないですか」
Y「『運動』ならしてるよ」
C「どんな運動ですか?」
Y「戦争法案反対運動,労働者派遣法改悪反対運動……」
C「その『運動』じゃないです」
Y「わかってるさ。でも,法律家としてすべき『運動』が忙しくて,運動ができないとは・・・・・・」
C「まあ,あんまりくよくよしてもしょうがないですから,美味しいとんかつでも食べて元気出しましょう」
Y「そういえば,Cって飲食店で働きだしたんだよね」
C「はい」
Y「どうだい」
C「……」
Y「あんまり,よろしくないみたいだね」
C「ええ……あっ,すみません,キャベツのお替りお願いします」
Y「……やっぱり,そんなことはないかな?」
C「いえ,普段だったら,キャベツの大盛りと味噌汁をお替りするところですから,相当深刻です」
Y「……まあ,それはともかくどうしたんだい?」
C「実は,2か月前の給与明細書を見たら,契約時の基本給から5万円も下げられていたんです・・・25パーセントカットですよ」
Y「会社と基本給を下げる旨の合意をしたの?」
C「いいえ」
Y「就業規則,賃金規程,労働協約の変更とか,懲戒処分があったの?」
C「そういったこともありません」
Y「会社にはなんで下げたか聞いたの?」
C「いえ。でも,勇気のある同僚が社長に聞きに行ったら,『お前たちは,全く持って熱意がない。会社のためにもっと汗水たらして働かんかい。お客様によりよい低コスト・高サービスを提供するためには,お前たちの賃金を下げるほかないんだよ。下げても,払い過ぎているくらいだからな。そんなこと言いに来る暇があったらさっさと働かんかい,このボケ』と恫喝されて,全く持って相手にされなかったと言ってました」
Y「ひどいな」
C「でも,私なんか,何も文句も言えず,すでに2か月分黙って,その額の給料を受け取ってしまったんですよ,あーあ,これってもう争えないんですよね。」
Y「ん? そんなことはないよ」
C「えー,そうなんですか?」
Y「ああ。労基法24条1項本文は,いわゆる賃金全額払の原則を定めているでしょ」
C「はい」
Y「この趣旨は,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る点にあるんだ」
C「そうなんですね」
Y「その趣旨からして,賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は,労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限って有効とされるんだよ」
C「でも,黙っていたら,自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することになって承諾していたことにならないんですか?」
Y「そのように判断した裁判例もあるけど,黙っていても承諾していたことにならない裁判例も多くあるんだよ。例えば,使用者から,賃金を20パーセント減額され,そのまま3年以上減額した賃金の下で就労していた事案において,『労働契約において,賃金は最も基本的な要素であるから,賃金額引き下げといる契約要素の変更申入れに対し,労使間で黙示の合意が成立したということができるためには,使用者が提示した賃金引下げの申入れに対して,ただ労働者が異議を述べなかったというだけでは十分ではなく,このような不利益変更を真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に必要であるというべき』として合意の成立を否定した裁判例をはじめ,黙示の合意があったとは容易に認められないんだよ。」
C「そうなんですね」
Y「今度,事務所に来て詳細に聞くよ」
C「あー,なんだか安心したら,お腹が減ってきました」
Y「まさか,更にキャベツと味噌汁のおかわりをするんじゃないだろうね」
C「いいえ,すみません『ロースカツ定食』をもう一つください! もちろん先輩のおごりで」
Y「・・・・・・」
続く