2016年5月16日月曜日

ワーカーズネット講座 第30回「~一方的に賃金を減らされて,黙っていた場合,減額に合意したことになるの?~」


Y弁護士:ある法律家団体の記事を書くために,とんかつを食べ過ぎたことによる後遺症から脱却すべく,ジョギング等運動をしたいと考えているが,別な意味での「運動」が忙しくて運動できていない自称「へたれぷにょん」。
C:第10回で登場。地位確認とバックペイを求めて労働審判手続を申立てて,解決金をもらって,退職。現在は,ある飲食店で働いている。
※ とある川崎のとんかつ屋にて。
Y「・・・・・・(もぐもぐ)」
C「先輩?」
Y「・・・・・・ん?」
C「・・・・・・美味しくないですか?」
Y「いや,思わず『無類』と呟いてしまうほど美味しいんだけど・・・・・」
C「あっ,先輩太りました?」
Y「(ぐさっ)うっ・・・・・・いや,気のせいでしょう」
C「だから,そんな切ない顔をしていたんですね,ははは」
Y「笑うなよ」
C「運動したらいいんじゃないですか」
Y「『運動』ならしてるよ」
C「どんな運動ですか?」
Y「戦争法案反対運動,労働者派遣法改悪反対運動……」
C「その『運動』じゃないです」
Y「わかってるさ。でも,法律家としてすべき『運動』が忙しくて,運動ができないとは・・・・・・」
C「まあ,あんまりくよくよしてもしょうがないですから,美味しいとんかつでも食べて元気出しましょう」
Y「そういえば,Cって飲食店で働きだしたんだよね」
C「はい」
Y「どうだい」
C「……」
Y「あんまり,よろしくないみたいだね」
C「ええ……あっ,すみません,キャベツのお替りお願いします」
Y「……やっぱり,そんなことはないかな?」
C「いえ,普段だったら,キャベツの大盛りと味噌汁をお替りするところですから,相当深刻です」
Y「……まあ,それはともかくどうしたんだい?」
C「実は,2か月前の給与明細書を見たら,契約時の基本給から5万円も下げられていたんです・・・25パーセントカットですよ」
Y「会社と基本給を下げる旨の合意をしたの?」
C「いいえ」
Y「就業規則,賃金規程,労働協約の変更とか,懲戒処分があったの?」
C「そういったこともありません」
Y「会社にはなんで下げたか聞いたの?」
C「いえ。でも,勇気のある同僚が社長に聞きに行ったら,『お前たちは,全く持って熱意がない。会社のためにもっと汗水たらして働かんかい。お客様によりよい低コスト・高サービスを提供するためには,お前たちの賃金を下げるほかないんだよ。下げても,払い過ぎているくらいだからな。そんなこと言いに来る暇があったらさっさと働かんかい,このボケ』と恫喝されて,全く持って相手にされなかったと言ってました」
Y「ひどいな」
C「でも,私なんか,何も文句も言えず,すでに2か月分黙って,その額の給料を受け取ってしまったんですよ,あーあ,これってもう争えないんですよね。」
Y「ん? そんなことはないよ」
C「えー,そうなんですか?」
Y「ああ。労基法24条1項本文は,いわゆる賃金全額払の原則を定めているでしょ」
C「はい」
Y「この趣旨は,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る点にあるんだ」
C「そうなんですね」
Y「その趣旨からして,賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は,労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限って有効とされるんだよ」
C「でも,黙っていたら,自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することになって承諾していたことにならないんですか?」
Y「そのように判断した裁判例もあるけど,黙っていても承諾していたことにならない裁判例も多くあるんだよ。例えば,使用者から,賃金を20パーセント減額され,そのまま3年以上減額した賃金の下で就労していた事案において,『労働契約において,賃金は最も基本的な要素であるから,賃金額引き下げといる契約要素の変更申入れに対し,労使間で黙示の合意が成立したということができるためには,使用者が提示した賃金引下げの申入れに対して,ただ労働者が異議を述べなかったというだけでは十分ではなく,このような不利益変更を真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に必要であるというべき』として合意の成立を否定した裁判例をはじめ,黙示の合意があったとは容易に認められないんだよ。」
C「そうなんですね」
Y「今度,事務所に来て詳細に聞くよ」
C「あー,なんだか安心したら,お腹が減ってきました」
Y「まさか,更にキャベツと味噌汁のおかわりをするんじゃないだろうね」
C「いいえ,すみません『ロースカツ定食』をもう一つください! もちろん先輩のおごりで」
Y「・・・・・・」
続く

ワーカーズネット講座 第29回「 ~緊急!!派遣法の「改悪」案=「一生派遣法案」とは?!~」


1 派遣ってなんだろう?
  まず抑えるべきなのは,「派遣」という働き方は,例外的な働き方であるということです。
 なぜか?
 それは,派遣の場合,直接の雇用主でない者(派遣先)の下で,派遣労働者は働くことになりますよね。直接の雇用主でないということは,派遣先は,派遣労働者と契約関係(雇用を維持する義務とか)にないということです。そうすると,派遣先は,直接の契約関係にないことをいいことに,例えば,派遣労働者に無理難題をおしつけ,それに応じなければ,交代を言い渡すことが簡単にできてしまいます。直接の契約関係(労働契約)にあれば,交代の言い渡し=解雇なので,解雇には法律上厳格な規制がされており,簡単に交代の言い渡しなどできません。
 派遣労働者は,このような不当な取り扱いを受けやすいので,現在,派遣法によって規制されているのです。
 それでは,現在の「派遣法」でどのような規制がされているのでしょう?
 それは,原則1年、最長3年の期間制限があり,これ以上,同じ業務を派遣労働者にさせることは禁止されています。そうすることで,派遣先は,遅くとも3年後に,派遣労働者を直接雇用しなければならなくなり,派遣労働者が一生派遣労働者の地位におかれてしまうことを防止しているのです。
2 「一生派遣法案」が衆院で強行採決されようとしています!
  しかし,この「派遣法」が「改悪」されようとしています。 しかも,今週にも衆院で強行採決されてしまうおそれがあります。
 では,どのように改悪されようとしているのでしょう?
 簡単に言うと,原則1年,最長3年の現在の派遣受け入れ可能期間を,事実上なくしてしまい、派遣労働者を永続的に受け入れるすることを可能とするものです。これはいわば,「一生派遣」法案です。
 厚生労働省の派遣労働力調査では、派遣社員の約6割が,正社員を望んでいます。正社員の方が,地位が安定しているし,お給料も高いことが多いですから,当然ですよね。それなのに,今回の「改悪案」が出てきています。要するに,今回の「改悪案」は,労働者のためではなく,企業のために,国が作り出そうとしている法案です。
 今回の「派遣法」の「改悪案」を絶対に許してはいけません。一生派遣法案に,ぜひ反対の声をあげましょう。

ワーカーズネット講座 第28回「店長だから残業代は支払われない??「管理監督者」制度の罠」


管理職になったのに給料ダウン!?
ファーストフード店の店員が、店長を任せられ、今まで以上に仕事も忙しくなったのにもかかわらず、店長だからという理由で残業代が支払われなくなり、収入は店員時代より減少してしまった。こんなことってありなの??
これは、「管理監督者」に該当するとして、労働基準法の一日8時間、週40時間以上働いた場合に残業代支払い義務が発生する規定の例外扱いとなることで起きることです。
店長や部長などの○○長という役職名がつき、管理職になった場合は、もう残業代は支払いを一切受けられなくなってしまうのでしょうか。
「管理監督者」にあたるのは
「管理監督者」に残業代が支払われなくなるのは、
経営側と一体的地位にある管理職であれば、誰かに労働時間を管理されることなく自分で自由に労働時間を決められるし、残業代を支払わなくてもそれに見合った手当が支払われるから不当に搾取されることもないという理由から、管理職には残業代を支払わなくてもいいとされています。

労働法を悪用するブラック企業
しかし、このような労働法の定めを悪用しようと悪知恵働かせるのが、ブラック企業の手口です。
名ばかり店長、名ばかり部長など、「あなたは管理職ね」と、役職名だけ管理職にして、実際は管理職とは言えないような権限しか与えられず、自分で自由に労働時間を決めることもできず、待遇も悪い場合も多々あります。
裁判例では、マクドナルドの店長が、管理監督者にあたらないと判断されたケースもあります。役職名にかかわらず、実態が重要なのです。
おかしいとおもったら、専門家に相談しましょう!

ワーカーズネット講座 第27回「 5月1日はメーデー。」


メーデーは、そもそもアメリカの労働者が8時間労働制をもとめてストライキに立ちあがったのが始まりです。
1886年(明治19年)5月1日。
長時間労働に苦しめられていた労働者が
「仕事に8時間を、休息に8時間を、おれたちがやりたいことに8時間を!」
というスローガンを掲げました。
ストライキに立ちあがったのは、約38万人といわれています。
闘いの結果、8時間労働制を約束する企業が増えていきました。
しかし資本家も、権力を使ったり、マスコミを使って様々な形で
労働者や労働組合に大弾圧を行っていきます。
アメリカの労働者は、ますます団結を強め、国際連帯を広め、
世界の労働者が51日に集会やデモを行いました。
これがメーデーの歴史です。
世界で初めて8時間労働を国として導入したのはロシア革命後のソ連です。
その後ILO第1回総会(1919年)、「1日8時間・週48時間」労働制を第1号条約に定めました。
メーデーは人間らしく働くための闘いの歴史だったのです。
今ある8時間労働制は、こうした労働者と労働組合の闘い、抵抗運動があったからこを確立しました。
しかし今、この制度を揺るがす重大な法律が通ろうとしています。
高度プロフェッショナル制度、いわゆる残業代ゼロ法です。
4月に閣議決定されました。
財界はさっそく声明をだし、
「世界トップレベルの雇用環境・働き方の実現に向けた第一歩として評価する。」
まったく意味不明な、内容の抽象的な都合の良いものです。
財界にとっては「世界トップレベル」の安上がりに使える制度であることを表明したということでしょう。
「働き方」と「働かせ方」は常に対立するものであり、
それは使用者と労働者の力関係できまります。
労働者の側の抵抗がなければ、
ズルズルと使用者の都合の良い制度が
法律として成立してしまいます。

今こそ働く仲間が立ち上がるときです。
反対の声をあげるときです。

ワーカーズネット講座 第26回「 ~懲戒解雇の仮面を被った,育休を取得したことを理由とした解雇~」


Y弁護士:声の大きい弁護士。最近,ベルトの上にふてぶてしく乗ったお肉と闘うべく,筋トレらしき運動をしている。
F:Y弁護士の中学校時代の友人。現在,育休中。
川崎の某居酒屋にて。
F「美味しいな」
Y「でしょ。ここは,野菜炒めとお刺身とお酒が美味しいんだよ。もぐもぐ……
F「中学の頃と比べて,太ったよな?」
Y「うぐっ。……でも,身長も伸びてるんだよ」
F「ふーん,それで何センチ伸びたの?」
Y「……5㎝くらい……はい,すいません,間違いなく太りました」
F「まぁ,そんな君のベルトの上にふてぶてしく乗っているお肉事情なんかどうでもいいけど,ちょっと,相談したいことがあるんだけどいいかい?」
Y「なんだい?」        
F「今,俺,育休中なんだけど,上司からLINEで『君は,男性なのに育休を取った上,その期間も長いし,今後のキャリアアップを考えたら辞めた方がいいと思うんだけど』っていうメッセージが送られてきたんだ」
Y「ほう」
F「それで,『辞める気はありません』って返信したら,数日後,突然会社から,手紙が届いて,『貴殿の行為は懲戒事由に該当する』ので,2015年4月27日付で,懲戒解雇する』と書いてある文書が届いたんだ」
Y「どんな行為が懲戒事由にあたるって書いてあったの?」
F「無断欠勤が2回あったことが懲戒事由にあたるって書いてあったけど」
Y「実際に,そんなことはあった?」
F「2回休んだことがあったけれど,どちらも事前に会社に連絡したよ。1回目は,母が急に倒れてしまって救急車で運ばれてしまったので休む旨,2回目は,食あたりで病院へ行くので休む旨,説明したよ」
Y「休んだことで,会社から処分とか注意とか受けた?」
F「いや全く」
Y「それはいつの話?」
F「もう5年も前のことだよ」
Y「他に何か書いてあった?」
F「『貴殿は,育休を長く取得していることもあり,貴殿の自主的な退職を求めましたが,受け入れてもらえなかったので』ということも書いてあった」
Y「F以外の人も,育休取ると懲戒解雇されていたの?」
F「あー,今言われてみると,同期が産休,育休を取得したら,育休明けと同時に懲戒解雇されていたな。後輩も,育休取得したら,退職を求められたって言っていたけど,やっぱりこれってなんか変だよね。」
Y「そうだね」
F「そもそも,俺のミスって,懲戒解雇されちゃうほどのものなの?」
Y「いや,結論からいえば,解雇は無効になる可能性が高いね」
F「それは,どういう理屈なの?」
Y「育児介護休業法って聞いたことあるよね?」
F「聞いたことはある」
Y「これは,『育児休業及び介護休業に関する制度並びに子の看護休暇及び介護休暇に関する制度を設けるとともに,子の養育及び家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置を定めるほか,この養育又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずることに等により,子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り,もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて,これらの者の福祉の増進を図り,あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする』という法律なんだよね。同法10条では,『事業主は,労働者が育児休業申出をし,又は育児休業をしたことを理由として,当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない』と定めているんだよ。」
F「今回の場合の解雇は,この10条に反するということ?」
Y「そう」
F「これに違反した解雇はどうなるの?」
Y「無効となるんだよ」
F「でも,会社は,懲戒解雇って言っているけれど?」
Y「仮に,育児介護休業法10条違反に該当する事実がなかったとしても,今回の懲戒解雇も無効である可能性が高いね。懲戒解雇といえども,自由にできるわけではなく,労契法15条によれば,懲戒事由,懲戒の種類・程度が就業規則に明記されていなければならない上,労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当し,それが『客観的に合理的理由』であって,『社会通念上相当』と認められる場合でなければ,無効となるんだよ。今回の場合,そもそも就業規則に懲戒事由がきちんと定められているかという問題がある上,懲戒事由に該当する行為もなかったようだし。仮にあったとしても,懲戒解雇をするほどの相当性もないよね」
F「なるほど」
Y「実態として,懲戒解雇を装った,育休を取得したことによる解雇だね」
F「闘って解雇を撤回させたい……んだけど,お金が続くか不安なんだよね」
Y「相手方の出方とこちらの希望次第だけど,労働契約上の権利を有する地位を仮に定める『地位保全仮処分』と賃金の仮払いを求める『賃金仮払い仮処分』を申し立てる方法,労働審判手続の利用などの方法が考えられるね。他にも,雇用保険から基本手当を仮に支給される『仮給付』の申請などが考えられるけど,本件だと,会社が懲戒解雇だと言っているので,仮給付だと3か月の給付制限に引っかかる可能性があるけど。」
F「いろいろな方法があるんだね」
Y「今度,事務所で相談に乗るよ。ところで……
F「なんだい?」
Y「なぞかけを思いついたんだ」
F「藪から棒になんだい。まぁ,言ってみなよ」
Y「昔ヤンチャだったおじいさんと掛けまして,労働者側弁護士に訴訟を起こされたブラック企業と説く。その心は?」
F「……わからん」
Y「どちらも回顧/解雇して後悔します」
F「……回顧と後悔って若干意味被っていない?」
Y「……

つづく

ワーカーズネット講座 第25回「 ~よく聞く「管理監督者」って,なんだろう??~」


1 はじめに
 ワーカーズネット講座第1回でもご説明しましたが,1日8時間以上もしくは1週40時間以上働いた場合には,原則として,残業代が支払われます。
 しかし,労働基準法上,その労働者が「管理監督者」にあたる場合には,使用者は,残業代を支払わなくてよいことになっています。そうすると,この「管理監督者」にあたるかどうかは,労働者にとって,とっても重要ですよね。
 今回は,この「管理監督者」について,ご説明します!
2 そもそも,どうして「管理監督者」には,残業代を支払わなくていいの??
 それは,そもそも,どうして1日8時間以上もしくは1週40時間以上働いた人に対して,使用者が残業代の支払いを義務付けられているかに深く関係します。それは,かんたんに言うと,労働者が使用者から,過度な労働を課されて酷使されることを防止し,労働者を守るためです。
 そして,下で詳しくご説明しますが,法律上の「管理監督者」は,使用者にかなり近い地位の人を想定されています。ですので,自分の労働時間については自分で管理することが許されるくらいの地位や権限が認められていますし,その地位に見合ったある程度いい待遇(給料など)もされています。このため,「管理監督者」にあたるような人は,過度な労働を自分で防止できるのです。
 このように,「管理監督者」は,使用者に「残業代」の支払いを義務付けなくても,自分で働き過ぎを防止できるので,例外的に,「残業代」を支払わなくてもいいことになっているのです。
3 じゃあ「管理監督者」って,どんな人があたるの??
  よく使用者が使う方法の例として,「うちは店長が管理監督者になっているから,店長の君には残業代が出ないよ。」といったものがあります。
 しかし,法律上の「管理監督者」にあたるかどうか,要するに,使用者が残業代を支払わなくていいかどうかについて,使用者が自由に決めていいはずがありません。言い換えると,会社がいくら,「君は管理監督者だ。」と言っても,残業代を支払わなければならないかどうか,法律上の「管理監督者」にあたるかどうかとは,まったくの別問題なのです。
 では,「管理監督者」には,どのような人があたるのでしょうか。それは,裁判例で,次のような要件を充たす人だとされています。
経営自体に関係するような,重要な職務と責任を有している
出退勤をはじめとする勤務のしかたについて,裁量権を有していること
給与等について,一般の労働者に比して優遇されていること
 どうでしょうか。をみてみると,会社の経営に関係するような職務を負っている必要がありますが,これはかなり高い地位にいる人のことですよね。
 も,例えば「昨日夜遅かったから,今日は遅く出勤しよう。」といったことが,自由にできないと,あたりませんよね。
 も,一般の従業員と変わらないお給料でしたら,あたりません。

4 最後に
  大事なのは,会社が言うことがすべて正しいわけではないということです。会社が,「君は管理監督者だから,残業代が出ないよ。」と言っても,上のように,「管理監督者」にあたる要件は,とっても厳しいものです。
 もし,会社から「管理監督者」にあたるとされ,残業代が支払われていない方がいらっしゃいましたら,上の要件にあてはまるか,じっくり確認されることをぜひともおすすめします。
 「あたらないかもしれない・・・」と思った方は,私たち,もしくはお近くの労働基準監督署,その他専門家などにご相談なさってください!!

ワーカーズネット講座 第24回「 ~「辞めろ」は止めろ!退職強要は違法 ~」


会社から辞めろと迫られて苦しい
会社の経営悪化でリストラが必要になった。
会社でミスをしてしまった。
上司とケンカをして疎まれるようになってしまった。
こんなことが原因で、会社から辞めろとしつこく迫られて、苦しんでいる人はいないでしょうか。
今回は、そんな退職強要がテーマです。
会社から一方的に通知される解雇と違い、あくまで労働者の意思での退職をさせようとする退職強要の場合、その分、執拗かつ陰湿になされることが多いです。
会社は、これまでのミスをあげつらい、会社にあなたは不要だということを繰り返し伝える、さらには人格否定の言葉を浴びせ続けます。
そして、労働者に自信を失わせ、精神的にボロボロにさせて、心を折って、会社を去らせようとします。
退職強要の違法性
会社が労働者に対して任意で退職を求める行為は、それ自体禁止されるものではありません。
しかし、退職勧奨の手段・方法が社会通念上の相当性を欠くとして、不法行為となり損害賠償請求が認められた事案は多くあります。
退職強要で心が折れてしまいそうだと思ったときは、あきらめずに、まずは弁護士など専門家に相談しましょう。多くの場合は、弁護士が退職強要をやめるよう求めた内容証明郵便を送るだけで、とりあえず退職強要はやみます。
他にも、例えばこれまで会社で技術者として専門的な仕事をしていたにもかかわらず、会社の受付の仕事をさせられるなど、あきらかに退職させることを目的とした左遷的な職場配転も、無効になります。

退職届を出した後でも間に合う
また、追い詰められて退職届を出してしまった場合でも、まだあきらめないでください。上司に出しても、人事部長などに渡るまでは撤回できます。また、会社に正式に退職が受諾された場合でも、何時間にもわたり退職の面談を受け混乱して出してしまった場合など、事後的に錯誤、脅迫無効を主張できる場合もあります。
「辞めろ!」は止めろ!という気持ちを持って、専門家に相談し、すぐに対処しましょう。

ワーカーズネット講座 第23回「 ~ハラスメントについて~」


国会の審議では、ブラック企業対策について一定の対策がとられる方向で話が進められています。
「企業名の公表」についての検討や特別チーム「過重労働撲滅特別対策班」の設置などです。
ブラック企業やブラックバイトだけでなく、今、企業、公務、団体、医療・福祉現場問わず、あらゆる職場で「いじめ」「ハラスメント」が社会問題化しています。
神奈川労働センター発行の労働手帳では、
職場のハラスメントは相手の尊厳や人格を傷つけ、健康を害し、自殺に至る場合もある
また単に当事者の個人的な問題ではなく、ハラスメントを行った本人はもちろん、問題と放置していた場合は組織責任を問われることがあるとしています。
[相談事例] 
上司から3時間にわたり密室で叱責を受け、翌日から適応障害で求職。会社とは、復職も退職も話しあいが困難。
同僚の仕事ぶりに不満、改善を求めたが、逆に上司から退職を勧奨するようなパワハラ的言動をされた。
上司からの叱責、性格についての不快な発言などから体調が悪化し、契約を更新しないと通告を受けた。
こうしたパワハラは、実はいろんなところでおきているのではないでしょうか。
相談事例にあるように、退職に追い込むために意図的にパワハラが行われているということもあります。
問題を知りながら、上司や同僚が放置していることも多く、というより圧倒的多くが放置されています。
あらわれ方は、学校などでおきているいじめと大きな差はなく、学校での関係性がそのまま職場の関係性に引き継がれていると思われます。歪んだ人間関係が学校の集団、職場の集団、さらにはサークル的な集まり、スポーツチームの中、ありとあらゆる集団の中での「いじめ」「ハラスメント」が横行し、国そのもの将来を憂うような深刻な状態にあるのではないでしょうか。
職場のパワハラの問題は、
1に人格権の侵害です。
2に職場環境の悪化をもたらし業務遂行の障害となります。
3に能力の発揮を妨げ、人材の流出につながります。
パワハラについては法律の定義はありませんが厚生労働省では、
「パワハラは、同じ職場で働く者に対して、業務上の地位や人間関係、専門知識などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を越えて、精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為です。」
「上司と部下の関係だけでなく、先輩や後輩、同僚間などに対して行われるものも含まれます。」
[対応として]
企業などでは、社内の相談窓口
同僚や上司への相談
労働センター等への相談
となっていますが、大企業などではリストラ推進の武器がパワハラであったりします。
中小企業にはそもそも相談窓口もないでしょうし同僚や上司も信用ならない場合も多いことと思います。
[有効な対応として]
労働組合が行っている(御用組合ではない)相談窓口
労働弁護団が行っている相談窓口
そして、もちろん私たちワーカズネットにご相談ください。

ワーカズネットの活動を今後発展させていき、活動そのもの中で「パワハラ」と対峙した「豊かな人間関係」をつくっていきたいと考えています。

ワーカーズネット講座 第22回「 ~会社を辞めたら研修・留学費用は返還しなければならないの?~」


Y弁護士:おなじみ声が大きい弁護士。夜まで仕事をしているとよく顔色が悪いと言われているが,それは青ひげのせいであるとのこと。
A
:第2回に登場したY弁護士の大学時代の同級生。某ブラック企業で働いている。
 川崎駅の近くにある某美味しいとんかつ屋にて
Y弁護士「ここのとんかつ美味いでしょ!」
A「ああ,めっちゃ美味いなぁ」
Y「先輩弁護士に教えてもらったんだ。川崎駅周辺って美味しいとんかつ屋がたくさんあるんだよ」
A「へぇ-,じゃあ,これ食べたら,もう一件行ってみるか」
Y「とんかつ屋の『はしご』なんて聞いたことないわ」
A「おっ,ツッコミが静かになったな」
Y「そろそろ,声のボリュームの調整ができるようになってきたんだ。もう『第22回』だからな」
A「何の話?」
Y「こっちの話(笑)・・・・・・ところで,残業代をもらって,ブラック企業を辞めるって話はどうなった?」
A「実は,辞めたら留学費用500万円を返してもらうと脅されていて,辞められなくて」
Y「どういうこと?」
A「上司に,辞めると言ったら,6年前に1年間海外留学に行ったんだけど,その費用を全額返せっていうんだよ。そんなの返すお金もないから,居続けなきゃいけないんだよ。コンチキショーめ」
Y「会社と金銭消費貸借契約書とか取り交わしたの?」
A「いや,就業規則にそう書いてあっただけ」
Y「留学は,自分で『行きたいです』って言ったの? それとも,会社の業務命令で行ったの?」
A「会社から,社員教育の一環として,行ってこい言われて,行ったんだよ。俺は,アメリカには行きたくなかったんだよ。やっぱイギリスでしょ。」
Y「なるほど」
A「おっ,おまえもイギリス派か!」
Y「いや,そこに理解を示したわけではないから・・・・・・それで,向こうでは,仕事はしていたの?」
A「ああ,留学してたのに,現地の会社で仕事もしてたさ。しかも,俺は,留学したら向こうで法律学を専攻したかったのに,上司から『日本に帰ってきたら,デリバティブ業務をやってもらうから金融経済を専攻しろ』って言われて,仕方がなく,金融経済を専攻したよ」
Y「返還しなくてよくなる期間って定められていた?」
A「ああ,30年だった」
Y「辞めてから,いつまでに返さなければならないってことになっていた?」
A「辞めてから1週間で,留学費用を返せと。もし返さないとそれ以降は,月利3%の遅延損害金を支払え,っていう内容だった」
Y「ひどいな」
A「えっ,もしかすると,もしかす・・・・」
Y「るかもね。」
A「おお,マジか!? 一応会社のお金で留学に行ったし,会社も留学させたのにすぐに辞められたらたまったもんじゃないだろうから,自分が悪いかなって一瞬思ってしまったんだけど,どーゆー理屈?」
Y「労基法16条には,『使用者は,労働契約の不履行について違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない』と定めているんだよ。要するに,損害賠償額の予定を禁止しているんだ」
A「へぇー。どうしてそんな規定があるの? 確か,民法では損害賠償額の予定をしてもいいっていうことじゃなかったっけ?」
Y「ああ,民法の世界では,損害の立証の困難を回避して紛争の予防のために合理的だっていう話だよ。でも,それって,あくまで交渉力が対等の当事者を想定してるんだけど,労働契約って,労働者と使用者の間に交渉力格差があるよね。」
A「そうだね」
Y「そうすると,労働者にとって過大な賠償額を予定されちゃったり,労働者が契約期間の途中で退職したり,逃げちゃった場合の高額の違約金が定められてしまうことがあるんだよ。そのような高額な賠償額や,違約金が定められてしまうと,身分的従属や拘束・足止めをもたらすことになった,つまり,労働者が辞められなくなってしまって,いつまでも会社の言うことに従い続けないといけない関係になってしまう。これを防止するために,作られたんだよ」
A「なるほど。でも,就業規則の規定も含まれるの?」
Y「含まれるよ」
A「じゃあ大丈夫か・・・・・・あっ,でも,俺の場合って,『労働契約の不履行』なの?」
Y「鋭い。まさに,そこが問題で,企業が費用を負担して労働者に研修や留学するための費用について,一定期間内に退職したら,返還する義務があると定めた規定があった場合に,この義務に違反して退職することが『労働契約の不履行』となり,研修・留学費用の返還が『違約金の定め,又は損害賠償額の予定』にあたるかという話になるんだよ」
A「それで,俺の場合はどうなの?」
Y「話を聞いた限りでは,労基法16条違反の可能性があるね」
A「おお! でも,それって,どういう点に着目して判断されるの?」
Y「裁判例を分析すると,研修・留学費用に関する労働契約と区別した金銭消費貸借契約の有無,研修・留学参加の任意性・自発性,研修・留学の業務の程度,返還免除基準の合理性,返済額・方式の合理性等を要素に着目して,総合的に判断しているようだね」
A「だから,さっき,あんな質問したのか」
Y「そうだよ。今度,就業規則とか必要な資料を持ってきてもらった上で,詳細に話を聞くよ。」
A「ああ,頼む」
Y「あっ,たった今,『謎かけ』を思いついたよ」
A「藪から棒に何なんだよ・・・・・・ちなみに,どんな謎かけ?」
Y「『ブラック企業の残業代未払い』とかけまして,『留学先』と解く,その心は?」
A「・・・・・・わからん。正解は?」
Y「どちらも違法/異邦です」
A「・・・・・・最近は,国内の大学にも留学できるから,留学先は,必ずしも異邦じゃないけど? 駅前で留学っていうのもあるし」
Y「・・・・・・」

つづく