2020年5月29日金曜日

【新型コロナウイルスを理由に解雇等された場合,どうなるの?】

【新型コロナウイルスを理由に解雇等された場合,どうなるの?】
新型コロナウイルス感染症を理由に,解雇,内定取消し,一方的な賃金減額が行われたとの相談が増えております。
 仕方がない,やむをえないと思っている方もいますが,新型コロナウイルス感染症を理由に挙げたとしても,全ての解雇,内定取消し,賃金減額が有効になるわけではありません。
 解雇であれば,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当性を欠く解雇は,違法,無効になります(労働契約法16条)。
 また,経営上の理由から余剰人員削減のためになされる,「整理解雇」の場合,
①人員削減の必要性
②解雇回避努力義務
③人選の合理性
④手続の妥当性
といった整理解雇四要件(要素)を考慮された上で,解雇の有効性が判断されます。
 ですので,例えば,単に,抽象的に,新型コロナウイルス感染症で,売上が下がったことを理由に,黒字リストラで,解雇回避努力義務を果たさず,いきなり労働者を解雇した場合などは,違法,無効になるでしょう。
 また,内定取消しの場合も,自由に内定取消しをすることができるわけではありません。
 最高裁判例では「採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できないような事実であつて・・・・・・解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と判断されています。
 ですので,たとえ,新型コロナウイルス感染症の影響であっても,整理解雇の四要件の考え方を加味しながら,解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるかどうかが判断されます。
 賃金減額の有効性は,具体的な理由によって変わります。
 違法な解雇,内定取消,賃金減額がなされた場合,適切に権利を主張を行うことで,解雇,内定取消が撤回され,差額分の賃金を受け取ることができる可能性があります。
    実際に,1か月間の間に,解雇,内定取消が撤回されたケースもあります。
 NPO法人ワーカーズネットかわさきでは,HP等で相談を受け付けております。必要であれば,労働者に寄り添った弁護士,労働組合をご紹介いたしますので,お一人で悩まれることなく,ぜひお気軽にご相談ください。

2019年9月12日木曜日

【ワーカーズネット講座第44回】 ~労働基準監督官への申告方法~


【ワーカーズネット講座第44回】

~労働基準監督官への申告方法~



Y弁護士:声の大きい弁護士。最近,フランス語の勉強熱も冷めつつある。街中を我が物顔であちこち飛び回る「花粉」と格闘中。

Pさん:Yの大学時代の友人。IT企業を辞めて,現在転職活動中。



川崎のとあるフランス料理店にて。



Y「ハックション」



PBless you



Y「ありがとう。花粉症がひどくてね。」



P「そーいえば,『くしゃみをしたら,魂が抜けてしまうから,魂を戻すために神のご加護を唱える』という文化って,英語圏以外にも当然あるんでしょ。フランス語で何というの?」



Y「友人とか親しい人には,À tes souhaitsって言うよ



P「目上の人とかには?」

Y“À vos souhaits !”だね



P「へぇー,他に,フランス語を勉強してワインとかも詳しくなったりしたの?」



Y「いや,全然。大学時代に,講義で知ったAOCAppellation d'Origine Contrôlée)くらいしかわからないね」



PAOCって何だっけ?」



Y「原産地呼称統制というもので,フランスのワインとチーズといった農業製品に対し,一定の条件を満たしたものだけに与えられる品質保証のことだよ」



P「あー,そんなことを学ぶ講義もあったなぁ。」



Y「それは,ともかく,相談があるんでしょ」



P「大した相談じゃないんだけど,前の会社の数万円程度の賃金未払があってね」



Y「いや,重要な相談じゃないか」



P「どうしたらいい?」



Y「会社に請求したの?」



P「内容証明郵便で請求したけど,完全に無視された」



Y「ひどいな,未払賃金の額を証明できる資料一式はあるの?」



P「それは,自分で調べて完璧にある」



Y「一つの方法としては,労働基準監督署に,労働基準法違反の申告をする方法があるね」



P「それってどういうものなの?」



Y「労働基準法104条1項に基づく労働基準法違反の事実を労働基準監督官に申告できる制度だよ。すなわち,労働基準法104条1項には,『事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる』とあるんだ」



P「へえ。」



Y「賃金未払は,労働基準法24条違反に該当する事実だから,労働基準法104条1項に基づく申告を労働基準監督官にすることができるんだ」



P「なるほど。具体的にはどうするの?」



Y「管轄の労働基準署に,労働基準法違反に関する申告書と労働基準法24条違反に該当する事実を裏付ける資料を持参して,窓口で,『労働基準法違反の事実を申告しに来たので,労働基準監督官をお願い致します』と言えば,その後,労働基準監督官が対応してくれるよ」



P「その後どうなるの?」



Y「労働基準監督官が調査をし,未払賃金があると確認できれば,使用者に支払うようにと言ってくれて,支払われることが多いね」



P「全額支払えと言ってくれるの?」



Y「確たる証拠があったり,使用者が全額未払を認めれば,そうなるけれど,争いがあって,確たる証拠と言い切れなかったりすると,その部分について,支払ってくださいとまで言わない場合があるね。また,罰則はあるけど,民事ではないので,支払ってくれない場合に,強制執行できるかというとそれは,できないね。そうなると,後は弁護士に相談して,訴訟を起こすか労働審判手続の申立てをするか,労働組合に相談し,加入して団体交渉をするという方法で解決を目指すことになるね。」



P「なるほど。一長一短なんだね。申告にはお金はかかるの?」



Y「申告にあたって,お金はかからないよ。」



P「全然知らなかった。」



Y「そうなんだよ。『賃金未払のときにどうするのか』というとても大切なことについて,今の教育では,全然教えていないんだよ」



P「なるほどね。」



Y「また資料のことや,相談窓口のことについて,聞きたいことがあったら連絡してよ」



P「わかった。ありがとう」



Y「ところで,一つなぞかけを思いついた」



P「ん,なんだい」



Y「『未払賃金をもらえず生活ができない労働者』とかけまして,「その労働者が未払賃金があることを労基署に告げること」とと解く。」



P「その心は」



Y「どちらも『しんこく』(深刻,申告)です」



P「単純ななぞかけだね」



Y「・・・・・・(思いつかなかったというか,練る時間がなかったのだよ)」



つづく

2019年8月2日金曜日

【ワーカーズネット講座第42回 労働基準法上の「労働者」って何?】


Y弁護士:おなじみ,声が大きい弁護士。最近,統計学,疫学,フランス語を勉強中(約10時間の勉強で仏検4級を取得)。
乙:Y弁護士の中学時代の友人。現在,「請負契約」で,映画撮影技師として働いている。

 自宅にて。



Y「この料理美味しいでしょ」



乙「んー,なかなか美味だね。なんだい,このやや黄色がかったチーズみたいで,お餅のようによく伸びる食べ物は?」



Y「これは,『アリゴ』(Aligot)というフランス料理だよ。オーブラックという地方の郷土料理で,ジャガイモ,チーズをベースに,ニンニクやバターやオリーブオイル等入れて,肉料理の付け合わせでよく出されるものさ」



乙「へぇー。『アリゴ』って,芋料理に分類されるの?それとも,チーズ料理に分類されるの?」



Y「んー,両論あるらしいよ。まあ,何を芋料理と定義付けるか,何をチーズと定義付けるか,そして,『アリゴ』はそれらの定義にあたるかどうかなんじゃないかな」



乙「まあ,そうなんだろうね。ところで,ちょっと聞きたいんだけど,いいかい?」



Y「ああ」



乙「俺は,『事業主』なんだろうか,『労働者』なんだろうか?」

※ 川崎のあるそば屋にて。

Y「というと?」



乙「俺は,今映画撮影技師として,働いているんだけど,契約書には『業務委託契約書』と書いてあるんだ。」



Y「ほほう」



乙「でも,全く自由に働いているのではなくて,契約の相手方の会社の従業員から,細かいところまで指示された上で業務をしていて,一度断ろうとしたら,『お前に断る権利なんかない,解雇するぞ』と脅されたことがあったんだ。最初の頃,『こうしたらもっとよくなる』と従業員に言ってみたら,『言われたとおりやってればいい』って言われたんだ。裁量なんてありゃしない」



Y「働く場所や勤務時間も決められているの?」



乙「そうなんだよ。平日週5日,9時~17時,会社のスタジオに行くことになっているんだよ。残業代も出ないのに,他の会社の従業員と同じように,タイムカードを打刻しているんだ。遅刻すると,勝手に報酬から天引きされるし。一度,残業代がないことについて,会社に文句を言ったら,『労働者じゃないだろ,契約書のタイトルを読めないのか,お前は』と叱責されるし」



Y「報酬は,どのように支払うことになっているの?」



乙「1時間あたり2000円支払うことになっているよ」



Y「会社の他の従業員の給料と比べてどう?」



乙「だいたい同じくらいだね」



Y「機材はどうしているの?」



乙「会社が所有している物を使えって言われて,使っている」



Y「他の会社の依頼を受けてもいいの?」



乙「駄目って書いてある。」



Y「乙は,他の人を雇っている?」



乙「まさか」



Y「会社から貰ったお金は,事業所得として自己申告している?」



乙「いやしてない。残業代未払とかで労働基準法に反しているようにも思うんだけど,どうなの?」



Y「結論からいうと,乙は,労働基準法上の『労働者』に当たる可能性が高いね。そうだとしたら,残業代を請求したりできるし,報酬からの天引きも違法になるよ」



乙「そうなのか。でも,『業務請負契約書』って書いてあるけど?」



Y「労働基準法が適用されるかどうかは,形式できまるのではなく,労働基準法でいうところの『労働者』に該当するかどうかによって決まるんだ。『事業』に『使用される』こと及び『賃金』の支払いを受けていることが必要なんだ。」



乙「それってどう判断するの?」



Y「判断要素としては,主に,①仕事の依頼への諾否の自由,②業務遂行の指揮監督,③時間的・場所的拘束性,④代替性,⑤報酬の算定・支払い方法を判断要素とし,補足的に,⑥機器・用具の負担,報酬の額等に現れた事業者性,⑦専属性等を判断要素として判断するんだ」



乙「へえ」



Y「乙の話によれば,仕事依頼に対する諾否の自由がなく,業務の内容や遂行の仕方について指揮命令を受け,勤務の場所や時間が規律されているから,『使用され』ているといえる可能性が高いよね。それに,乙は,会社に専属的に従事しているし,他人を雇用してないし,機器も会社ものを使っているし,事業所得として自己申告してないしね。これらの事情に加えて,額,計算方法,支払い形態において,従業員の賃金と同質の可能性が高く,働いた時間に応じて定められた報酬を受け取っているから『賃金の支払い』といえる可能性が高いね」



乙「なるほど。ってことは,この会社は・・・・・おー!?ブラックか?」



Y「そうそう。今度,資料を持って相談に来なよ」



乙「わかった。でも,なんで労働基準法上の『労働者』に当たりそうなのに,会社は,そうじゃないっていうんだろう?」



Y「それは,本来労働者を守るために定められた労働時間規制などの労働法による規制を免れたいという動機があるからだよ。まったくもって,ひどい話だよ」



乙「ひどい話だ」



Y「他にも,労働者でなければ,社会保険料や消費税の負担を減らせるという動機もあるね」



乙「へえ。まあ,米を使う料理という意味で『米料理』,チーズを使う料理という意味で『チーズ料理』,芋を使った料理という意味で『芋料理』と定義付けた場合,ある人が,アリゴをいくら『米料理』と名付けても,客観的には,アリゴが米を使って料理されず,チーズとジャガイモを使った料理で以上,『米料理』とは認められず,『チーズ料理』『芋料理』と評価されるということと同じだね。」



Y「んー,非常にわかりにくい例えだけれども,自分なりに咀嚼できているようなので,まあいいか。ところで一つ謎かけを思いついた」



乙「なに?」



Y「アリゴの食文化が作られた地域とかけまして,労働基準法上の『労働者』であるにもかかわらず,事業主として働かされていたことを知った人の会社に対する評価と解く。」



乙「その心は?」



Y「どちらも,『オーブラック』です」



乙「・・・・・・ちと,無理やりじゃないか?」



Y「・・・・・・(なかなかネタが思いつかなかったんだよ)」



つづく

NPO法人ワーカーズネットかわさきに参加する弁護士の記事が弁護士ドットコムニュースに掲載されました。

NPO法人ワーカーズネットかわさきに参加する弁護士の記事が弁護士ドットコムニュースに掲載されました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190722-00009912-bengocom-life&pos=5

2016年6月24日金曜日

ワーカーズネット講座 第34回「 仕事上のミスを理由とする損害賠償 ~会社から「辞めたら損害賠償するぞ」と言われた~」


Y弁護士:夜になると顔色が悪く(=青く)なる弁護士。同じ事務所の姉弁からお土産に天然素材の脱毛クリームをもらう。
Z:Y弁護士の母校の後輩。現在,飲食店でアルバイトをしている。
※ ある川崎の鰻屋にて。
Y「ここの鰻屋さん,美味しいでしょ?」
Z「はい」
Y「川崎で一番美味しいと思うね。思わず『無類である』とつぶやきたくなってしまう」
Z「そうですね」
Y「君の微笑をたたえた表情が鰻の美味しさのすべてを物語っているよ。嫌みにならない程度にほどよく乗っている脂,泥臭くなく,ふっくらとした身,鰻そのものの素材を生かすタレが脂とともに相互に高め合って・・・・・・」
Z「Yさん」
Y「なんだい?」
Z「なんだかんだで,Yさんがすべてを物語っていますよ」
Y「・・・・・・。それはともかく,相談ってなんだい?」
Z「私,今大学2年なんですが,司法試験を目指して,本格的に勉強をしようと思っているんですよ」
Y「ほう」
Z「それで,大学1年からやっている飲食店のアルバイトを辞めようと思って,店長に来年の3月に辞めると伝えたんですよ」
Y「うんうん」
Z「すると,店長が『君が辞められたら困るんだよねぇ・・・・・・せめて大学卒業するまでは働いてよ』って言ってきたので,私は,断ったんです。断ったら,突然店長が激昂して『君がどうしても辞めるんだったら,これまで割ったコップ,お皿の損害賠償請求するから覚悟しておけ』って言われたんです。」
Y「どういう状況で,食器を割ったの?」
Z「通常の食器洗いの際に,いくつか割ってしまっていて,他の人と差はないと思います。店長も,特に,食器を割っても弁償しろとか言ってきませんでしたし,実際に,請求されたことはありませんでした。バイト先の今も働いている友達や辞めた友達にも聞いたんですが,誰も請求されたことはなかったと言っています。」
Y「なるほど」
Z「民法の講義(不法行為法)で習ったんですが,やっぱり,過失があるから損害賠償しなければならないんですよね?」
Y「いや,そうとも限らないよ」
Z「えっ?! 本当ですか?」
Y「今まで,嘘のこと以外は本当のことしか言ったことがないから間違いないよ」
Z「そうなんですね……って当たり前の事じゃないですか」
Y「ごめんごめん」
Z「それで,損害賠償しなければならないのは,どうしてですか」
Y「些細な不注意,たとえば,飲食店で食器を割ったり,釣銭を多く払いすぎてしまうことは,日常的に,一定の割合で発生するものでしょ」
Z「はい」
Y「使用者は,そのようなことは当然予見できるものだし,労働者を使って利益を上げていることから,そういった労働過程上の軽過失によって生じる損害というリスクは,労使関係における公平の原則から使用者が甘受すべきだと考えられるんだよ」
Z「へぇー,そうなんですか。そうすると,わざと損害を与えたり,不注意の程度が重いと損害賠償責任を負うことはあるんですか」
Y「鋭い質問だね。まず,窃盗や業務上横領等の犯罪をして損害を与えた場合などは,全額について賠償義務を負う可能性が高いね。他方,重過失,すなわち,不注意の程度が重くても,損害の公平な負担という見地から,一定限度に限って賠償を認めるのが大半で,全額賠償を認めることはほとんどないね。」
Z「なるほど。どういった点に着目して,判断されるんですか」
Y「一概にはいえないけれど,①労働者の不注意の程度,②使用者側が労働者に対してどの程度教育・訓練したか,どれくらい業務命令を周知させていたか,保険の有無などの管理体制の内容,③労働者の資力や労働条件の劣悪さといった労働者の置かれた状況などが考慮要素だと考えられているね」
Z「そうなんですか。そうなると,私の場合は……」
Y「話を聞く限り,損害賠償責任は負わないだろうね」
Z「これで安心してご飯が食べられます」
Y「街角で無料労働相談をしていると,学生さんから,そういった相談を受けるね」
Z「そうなんですね」
Y「他にも,大学生から『労働組合って何ですか?』という質問を受けたことがあるね」
Z「私自身も,きちんと理解しているかといわれると……」
Y「多くの人は労働者になるのだから,自らの身を守るためにも,そして使用者になる人も,労働者の権利を侵害しないためにも『ワークルール』をしっかり学ぶ必要があるね」
Z「そうですね。実感しました。でも,なかなか,学ぶ機会がないような気がするんですが」
Y「鋭い。たとえば,『残業代ゼロ法案』の問題の前提となっている,労働時間規制について,育鵬社の中学校の公民の教科書では,『1日8時間労働制』としか記述されておらず,どのような内容なのか,どうして規制されているのかなどについて,全然書いてないんだよ」
Z「へぇー,そうなんですか?」
Y「このようにワークルールを十分に教えない一方で,『職業には責任がともないます。責任を果たしていくには,ときには苦労や忍耐も必要になります』という記述があるんだよ。権利を十分に教えないまま,責任,苦労,忍耐の必要性を説くことで,労働者が自らの権利が蹂躙されているのに気が付かずに,責任,苦労,忍耐の掛け声の下,労働者が追い詰められていき,過労死,過労自死,精神疾患の発症などを招いてしまうんだよ」
Z「そうなんですね。私もこれを機にいろいろ勉強したり,友達に話してみます」
Y「そうだね。まず,自分の周りの出来事に対してアンテナを張って,何かおかしいと思ったら,調べたり,いろいろと議論したりして,必要であれば,行動に移すことが大切だね」
Z「わかりました。あっ,今,私おかしいことに気が付きました」
Y「ん,なんだい?」
Z「Yさんは,日本酒をたくさん飲んでいますが,私はお酒を飲まないから,もっと鰻を注文しないと,飲食代の『公平な分担』になりませんよね,すみません『白焼』ひとつください」
Y「……(おごるんだからそこは……)」
続く

2016年6月8日水曜日

ワーカーズネット講座 第33回  ~マタハラに対抗するための基礎知識~


1 はじめに
  はたらく女性が,妊娠や出産をきっかけに使用者から不利益な扱いを受けてしまった,いわゆるマタニティハラスメント(マタハラ)に関するご相談をよくお受けします。ですので,今回は,マタハラに対抗するために,女性を保護するための法律知識をご紹介します。
2 産前産後の休業
 使用者は,6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合には,その女性を働かせてはいけません。また,使用者は,産後8週間を経過しない女性を働かせてはいけません。
 このような産前産後の休業期間及びその後の30日間は,使用者はその女性労働者を解雇することが禁止されます。
 そして,産前産後の休業をしたことそれ自体を,昇給や昇格・ボーナス算定上,不利益な資料とすることは,違法です。
3 育児休業など
 ①1歳未満の子を養育する労働者は,その子が1歳(場合によっては1歳6カ月)になるまでの期間,育児休業を取得できます。
 ②小学校入学前の子を養育する労働者は,使用者に,残業の制限や深夜業の免除,勤務時間短縮などを求めることができます。
 ③これらの制度を使ったことを理由として,使用者が,解雇や更新拒絶,減給といった不利益な取り扱いをすることは,違法です。
4 終わりに
  以上のような法規制に反する,違法な措置を使用者が行ってきた場合には,1人で悩まず,私たちワーカーズネットや弁護士,労働組合等に,すぐにご相談ください!!

2016年6月4日土曜日

ワーカーズネット講座 第32回「命をも奪う、若者の働かされ方の現状と司法の役割」


≪新卒過労事故死裁判 原告代理人の意見陳述より≫
■ 第2回裁判期日:7月23日(木)■
10時00分~ 裁判期日 横浜地方裁判所川崎支部第1号法廷(教育文化会館向かい)
10時20分~ 報告集会 川崎教育文化会館 第三会議室
以下、第1回意見陳述で原告代理人が裁判所に述べた意見陳述です。
第1 事件の概要 
  本件は、被告会社グリーンディスプレイ(以下、「グリーンディスプレイ」といいます。)が安全配慮義務に違反し、渡辺航太さん(以下、「航太さん」といいます。)に長時間労働を強いて疲労を蓄積させた結果、職場からの帰宅途中に事故死した事件であり、遺族原告がグリーンディスプレイに対して損害賠償請求を求めて提訴しました。
1 グリーンディスプレイにおける長時間・不規則深夜労働 
航太さんは、グリーンディスプレイにおける就労開始当時から、長時間におよぶ不規則深夜労働を強いられて、疲労が蓄積していました。
(1)長時間労働
航太さんは、2013年10月、アルバイトとしての就労開始当時から、週6日フルタイムでの勤務を要求され、1週間連続勤務となることもありました。時間外労働は、100時間を超すこともあるなど、長時間労働は常態化していました。
厚生労働省は、時間外労働が1ヶ月あたり45時間を超えるときは労働者を疲労を蓄積させ、健康を損ない、長期間に渡るほど、過労死として認定されるとの基準を示しています。航太さんは、6ヶ月以上にわたり、過労死に陥り得る過酷な就労環境に従事していました。
(2)不規則深夜労働
さらに、航太さんは、深夜早朝に及ぶ不規則労働に従事していました。これは、航太さんが、日中行われる水やりなどの作業の他、百貨店などの顧客店舗内で草花・観葉植物の設置や飾りつけをするなどの顧客店舗の営業中にはできない作業に従事させられており、営業終了後、深夜から早朝にかけて作業させられていたからです。なお、試用期間中のアルバイトとされていた航太さんは日中から深夜早朝に及ぶ不規則労働に従事させられていましたが、裁判を準備するための調査の中で、他の正社員は日中または深夜早朝の規則的なシフトが組まれていたことも分かりました。航太さんはグリーンディスプレイの従業員の中でも特別過重な労働を強いられていたのです。
徹夜の作業のため、業務終了時間が深夜早朝にわたる時は、電車などの公共交通機関が運転していませんでした。そのため、航太さんは、徹夜労働の後、さらに睡眠時間を削り、1時間かけて原付バイクを運転して帰宅せざるを得ませんでした。
不規則深夜労働は、人間固有の「サーカディアンリズム」という生活リズムに反し、疲労が蓄積しやすいため様々な健康被害に陥りやすいもで、厚生労働省の過労死認定基準でも、考慮要素とされています。
先輩たちは、航太さんに対して、「手がもげても足がもげても働け」「さすが平成生まれだね」など厳しい言葉を浴びせかけました。
それでも、航太さんが、グリーンディスプレイにおける過酷労働に無理をして従事していたのは、正社員としての試用期間として位置づけられていたからです。就職難のなか、航太さんは、正社員として採用してもらうために、無理をして過酷労働に従事し、その結果、恒常的に疲労が蓄積していました。
2 グリーンディスプレイにおける労働と本件事故の因果関係があること
  グリーンディスプレイで就労を開始して半年後、2014年3月に、航太さんはようやく正社員として採用されましたが、長時間不規則勤務は続きました。特に本件事故前日の4月23日から、事件当日の翌24日の朝までは、航太さんは約22時間もの長時間勤務に従事しました。
2014年4月24日午前9時12分頃、航太さんは、横浜にあるグリーンディスプレイの事務所から、東京都稲城市の自宅へ、原付バイクで帰宅途中、川崎市麻生区の路上で、電柱に衝突しました。そして、脳挫傷、外傷性くも膜下出血の傷害を負い即死しました。本件事故現場は、見通しの良い直線道路であり、路面は平坦なアスファルトで、乾燥していましたが、航太さんは、左右への回避措置や制御措置を全くとならないまま電柱に衝突したことが分かっています。
航太さんは、グリーンディスプレイの下で、6か月に渡り長時間業務に従事しており、本件事故の1ヶ月前も、徹夜勤務により、時間外労働時間は80時間を超え、疲労が蓄積していました。さらに、本件事故直前の3日前、2日前も、長時間勤務が続いており、最低限の睡眠時間すら確保するのが難しいほど長時間労働に従事していました。さらに、本件事故直前は、24時間近い徹夜勤務の後、睡眠をとることもできないまま、原付バイクで帰路についたのです。
以上の経緯から、航太さんは、本件事故直前、極度の心身の疲労と睡眠不足の状態にあったのは明らかです。その結果、航太さんが、原付バイクを運転して帰宅する途中、睡眠不足や過労から注意力低下、居眠り等の状態となり、本件事故が起きたのです。
3 グリーンディスプレイの安全配慮義務違反
 会社は、労働者の生命及び健康を危険から保護するように配慮する義務、すなわち安全配慮義務を負っています。
グリーンディスプレイは、航太さんの勤務シフトを作成していました。そのため、グリーンディスプレイは、航太さんが連日深夜に及ぶ業務に従事し、深夜早朝に及ぶ場合は、航太さんが原付バイクで片道約1時間通勤せざるを得ないことを認識しており、過労状態・極度の睡眠不足が原因で本件事故を発生しうることは、十分予測可能でした。
したがって、グリーンディスプレイは、航太さんが極度の睡眠不足になることを予見し、業務の軽減を図るなどの適切な措置を講じることにより、航太さんが極度の疲労状態、睡眠不足に陥ることを回避すべき安全配慮義務を負っていました。
しかし、グリーンディスプレイは、企業利益追求を優先し、安全配慮義務を怠った末、航太さんを死に追いやったのです。
グリーンディスプレイの加害責任は明らかです。
第2 本裁判の意義と司法の役割
1 遺族のグリーンディスプレイに対する加害責任の追及
  本裁判は、未来の希望にあふれた若者であった、航太さんのかけがえのない命が一瞬で奪われた、凄惨な事件です。ご遺族原告の悲しみは計り知れません。奪われた命は、戻ってきません。遺族原告は、本訴訟において、航太さんの命を、お金に変えることを望んでいるのではありません。お金で済む問題ではないのです。
それでも、遺族原告が提訴を決意したのは、決して消えることのない喪失感の中、グリーンディスプレイの加害者としての責任を明らかにし、航太さんの無念を晴らし、航太さんと共に前に進むためなのです。裁判所におかれては、失われた航太さんの命の重み、遺族の決意を受け止めて頂くようお願いします。
2 労働者の非正規化と行政の規制の怠り
 加えて、本件提訴は、昨今社会問題となっている若者の雇用問題が背景にある事件として、提訴時から社会的注目を受けています。
  本件事故の背景として、労働者の非正規化があります。労働者の非正規化が進む中、若者は正社員としての就職を切望しています。グリーンディスプレイは、このような若者の気持ちを利用し、試用期間であるとしてアルバイトとしての就労を求め、長時間過酷労働に従事させ、使い捨てたのです。本件事故の背景には、雇用形態の非正規化の進行と、若者の就職難があります。
  また、労働行政の怠慢も、本件の背景にあります。航太さんは、グリーンディスプレイのハローワークの求人票を信頼し、応募したところ、求人票の記載とは全く異なる過酷な労働に従事させられることとなりました。すなわち、求人時に、企業から労働者に対し、虚偽の情報提供がされており、公的機関であるハローワークがそのような虚偽記載を放置したことが原因で、航太さんのような犠牲を生みました。
以上、労働者の非正規化の中での若者の就職難と、企業による若年労働者の使い捨て、そしてこれに対する労働行政の対策の怠慢という、昨今のいわゆる「ブラック企業」問題の被害の極限が、本件なのです。そのため、本裁判は、広く社会的注目を受けています。
3 過労死事件における司法の役割
航太さんの従事していた長時間労働及び深夜不規則労働は、過労死認定基準に該当するほどの過重労働であり、過労の蓄積の結果、事故死に至たりました。本件は、企業の経済的利益追及によって、労働者の命が奪われてしまった過労死事件として位置づけられます。
「過労死」救済の歴史において、これまで司法が果たしてきた役割は大きいものです。労働行政が、企業の横暴による労働者の「過労死」の救済をなかなか認めないなか、司法が、労働者の命に真摯に向き合った判決を下すことによって、国による救済と対策の道が切り拓かれてきた歴史が、「過労死」の歴史です。そして、長い闘いの末、ようやく昨年、過労死対策の基本法として、過労死等防止対策促進法が成立しました。
現在のところ、過労死等防止対策促進法の対象とする「過労死」は、脳・心臓疾患と、精神疾患による自殺であり、本件のような過労事故死は含まれていませんが、過労事故死は、調査研究の対象とされ、調査の結果によっては、今後の対策が取られる可能性があるものとされています。
近年も、大学病院の医師であった大学院生が帰宅時に交通事故死したという事例において、その原因は過労であったとして、大学病院の安全配慮義務違反が認められた裁判例がありました。このような先例に加えて、本裁判の帰結によって、過労事故も含めた過労死対策を強化させるものになり得るものです。
裁判所におかれては、航太さんの命の重みに真摯に向き合い、本裁判の社会的影響を踏まえて、2度とこのような悲劇を繰り返さないため、司法としての役割を果たすべく審理されるよう切望いたします。
          以上