―期間満了に際し,有期労働契約の更新拒絶(雇止め)されたからと言って,契約が終了するとは限らない―
Y弁護士:労働者に寄り添った声が大きい弁護士。1階でしゃべっている声が4階まで聞こえるレベル。
C:Y弁護士の大学時代の後輩。現在契約社員。
C:Y弁護士の大学時代の後輩。現在契約社員。
日本大通り駅近くの喫茶店にて。
Y:「急に電話かかってきたから,驚いたよ。元気?」
C:「いえ,あんまり元気じゃないんですよ……あっ,チョコショコラケーキとマロンケーキとショートケーキ,あと,アールグレイ,砂糖とミルクたっぷりで。先輩ごちそうさまです」
Y:「……おごると一言も言っていないのに,おごることを前提とした発言と,その注文の量からすると,全くもって元気なような気がするんだけどな」
C:「全然元気じゃないですよ。本調子なら,4号サイズのホールケーキを注文しますから」
Y:「ひょえー!! ホールケーキ!?」
※ 店内のお客さんが一斉に,Y弁護士を見る。
C:「シーッ! ……先輩相変わらず,声大きいですね。」
Y:「めんご,めんご,ってホールケーキって言われたら誰だって驚くだろう」
C:「むしろ私は,先輩の『めんご,めんご』という謝り方に驚きます。いつの時代を生きてきたんですか?」
Y:「うぐっ……。まぁ,それはともかく,相談したいことがあるとんだよね?」
C:「そうなんです。実は,私,1年契約で,これまで5回契約更新されてきたんですよ。ところがですよ。おととい,部長から突然『新卒の若者を取りたいから,君との契約は更新しないのでよろしく』って言われたんですよ。採用面接で,『希望する限り働き続けることができます』っていう説明をされた上,そのような説明が書いてある書面をもらったから,ずっと働けると思っていたのに……。正社員と同じ業務をしていたのに……。それで,次の勤め先を探さなきゃなって思って,雇用問題に詳しい先輩に……」
Y:「法律相談をしようと思ったんだね?」
C:「いえ,就職先を紹介してもらおうと思って」
※ Y弁護士ズッコケる。
Y:「いや,俺は,雇用問題に詳しいけど,ハローワークじゃないから,就職先を紹介することは難しいな」
C:「えー?! そうなんですか?」
Y:「そうです。……ところで,ちょっと確認するけど,まだ,今の職場で働きたいと思っている?」
C:「はい。でも,期間満了で更新しないって言われたら,もう働けないじゃないですか」
Y:「そうとも限らないよ」
C:「どういうことですか?」
Y:「従来から,判例では,労働者に雇用継続への期待が生じている場合等に解雇権濫用法理を類推する,いわゆる『雇止め法理』と呼ばれる判例法理が形成されてきたんだ」
C:「なんですか,その某RPGの聖なる魔法みたいなものは」
Y:「……本気で言っているの?」
C「冗談ですよ,あはは。それってどういう法理なんですか?」
Y:「有期契約は,期間満了によって終了するのが原則なんだ」
C:「やっぱり私が言った通りじゃないですか。私も一応法学部の端くれの末席……」
Y:「なんだい,そのよくわからない日本語は……話を戻して,それが原則的な考え方だけど,民法629条で,黙示の更新というのがあるから,労働者が期間を経過して引き続き働いていることに異議を述べないと更新が推定されるんだ。この黙示の更新を回避して,有期労働契約を期間の終了と共に打ち切るには,使用者は,実際に更新拒絶をする必要があるんだ」
C:「でも,それだったら,期間の終了で更新拒絶されたらやっぱり,もう働けないじゃないですか?」
Y:「だけど,よくよく考えてみると,期間の定めの有無こそ正規従業員と異なっているけれど,その実態が正規従業員と同様の業務に長期にわたっている場合,期間の定めの有無という形式のみで区別して,契約を更新しないことをもって雇用を奪うという事態は不当じゃないか?」
C:「そうですね」
Y:「そのような期間の定めの有無こそ正規従業員と異なっているけれど,その実態が正規従業員と同様の業務に長期にわたっている場合,期間の定めの有無という形式のみで区別して,契約を更新しないことをもって雇用を奪うという事態は不当であるという考えに基づいて,契約更新をずさんに行うなどして実質的無期契約と異ならない場合や反復更新等により雇用継続への期待が生じている場合で,更新拒絶が『客観的に合理的理由を欠き,社会通念上相当であると認められないとき』に,更新拒否の効力を否定する,というのが雇止め法理なんだよ。昔は,解雇権濫用法理の類推適用とか労働契約法16条の類推適用とか言ってたんだけど,現在では,労働契約法19条で明文化されたんだよ」
C「そうなんですか!」
Y「そう。労働契約法19条は,
①過去に反復して更新されたことがある有期労働契約であって,その契約期間の満了時に当該契約を更新せずに終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をして契約を終了させることと社会的に同視できると認められるか,または,当該労働者が当該有期労働契約期間の満了時に当該契約の更新を期待することについて合理的な理由があるものと認められる場合であって,
②当該有期労働契約の契約期間が満了するまでの間に労働者が当該契約の更新の申込みをしたか,または当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申し込みをしており,
③使用者が当該申し込みを拒絶することが客観的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,
使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申し込みを承諾したとみたす,
と定められたんだ」
C:「へぇー。私の同僚が雇止めされちゃったんですけど,その同僚は,雇止めされた直後にメールで『更新してください』的なことを書いて送っていたようなんですが,そんなのでも,②の要件って満たすんですか?」
Y:「鋭い質問だね。更新の求めは黙示の意思表示でもよくて,使用者の雇止めに遅滞なく異議を述べれば,更新又は締結の申し込みを黙示にしたことになるんだ。国会審議でも,使用者による雇止めの意思表示に対し,「嫌だ」,「困る」というなど反対の意思が伝わる言動があれば,この要件を充たすと言っているんだ」
C:「そうなんですね。あと,①って具体的にどう判断するんですか? ものすごく抽象的でよくわからないんですが」
Y:「ここは,従来の雇止め法理を適用した裁判例の積み重ねが承継されるとされているんだ。具体的には,雇用の臨時性・常用性,更新の回数,雇用の通算期間,契約期間管理の状況,雇用継続の期待をもたせる言動や制度の有無,労働者の継続雇用に対する期待の相当性等を総合的に見て判断するんだよ」
C:「なかなか難しそうですね」
Y:「まぁ,Cのケースは,不当な雇止めの匂いがプンプンするから,今度,事務所に来て,詳しく聞かせてよ。もし,他の同僚にも同じような境遇の人がいたらその人の相談も別途のるよ」
C:「ありがとうございます。ちょっと安心したのか,お腹が減ってきました。先輩ホールケーキ頼んでもいいですか?」
Y:「『更新拒絶』する」
C:「先輩……上手いこと言おうとして,完全にスベって事故っちゃいましたね。『ケーキのお替りはダメ』ってことを『更新拒絶』って言ったんですよね,わかります。」
Y:「…………」
つづく
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