2016年5月16日月曜日

ワーカーズネット講座 第14回「 【悲報】「おとなしく休職したら解雇されたorz……の巻」


Y弁護士:おなじみ,声の大きい弁護士。最近ひげを剃っている最中に,ぎっくり腰になった。
D:Yの大学院時代の友人。大学院修了後,一般企業に就職。生粋のにちゃんねらー。
川崎にある,美味しいお肉が出てくる某店にて。
Y「ここのお店,めっちゃ美味しいでしょ」
D「うむ。実にうます」
Y「にしても,びっくりしたよ」
D「何が?」
Y「突然LINEで『【悲報】おとなしく休職したら解雇されたorz』という全くもって奇妙奇天烈なメッセージが送られてくるんだもんな。【悲報】というから何事かと思ってすぐに電話かけちゃったもんな。はっはっはっ」
 厨房の料理人に白い目で見られる。
D「貴君,うるさい。」
Y「すまん,すまん。にしても【悲報】なんて表現は面白いね」
D「注目されるための手段として,ネットの住人にとってはJKですな」
Y「JKって?」
D「『常考』という意味だよ」
Y「へぇー。知らなんだ」
D「むしろ貴君の『奇妙奇天烈』の言葉づかいの方が,驚きだよ。一瞬,某国民的漫画家の作品に出てくる,いつも帽子を被った眼鏡の少年を思い出したナリ」
Y「……大人の事情があるから,これ以上は突っ込まん」
D「武士の情けナリか?」
Y「……まぁ,それは,ともかく,休職したら,解雇されたんだってね」
D「そうでござる(・・・)
Y「どうして休職したの?」
D「実は,うつ病になって,働けなくなってしまったでござる。そのことを上司に告げると,休職しろって言われたので,素直に休職していたんだけど,休職期間が満了したとして,解雇されたでござる。」
Y「うつ病の心当たりは?」
D「プライベートで母が亡くなったり,地震で実家が倒壊したり,婚約破棄されたり,泣き面に蜂……。でも,休職期間前に治ったから,診断書とって,会社に提出したんだけど……
Y「職種の限定はあった?」
D「ないでござる」
Y「業務内容の限定は?」
D「特に,特定されてないでござる」
Y「Dの会社の就業規則って今持っている?」
D「これでござる」
Y「どれどれ……『傷病休職』の規定があるね。これに基づく休職だったの?」
D「そうでござる。もしかして,『【朗報】解雇が無効』とかいう話でござるか?」
Y「まだ,詳細を聞かなきゃわからないけどね。そのうつ病は,休職期間中に治ったの?」
D「治ったでござる。診断書もあるでござる……そもそも休職ってなんでござる?」
Y「休職とは,ある従業員について労務に従事させることが不能又は不適当な事由が生じた場合に,使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除すること又は禁止することをいうんだよ」
D「ほう。でも,ロースクールの民法の講義中の夢の中で聞いた,頭の片隅の重箱に寝そべっている雀の涙程度の知識を申し訳なさそうに広げてみて眺めてみたところ,病気で労務提供することができないと解雇されるんじゃござらんか?」
Y「確かに,労働者は,労働契約上,労務を提供する債務・企業秩序を遵守する債務を負っているから,傷病等によって債務の本旨に従った労務提供などができないときは,使用者は,本来であれば,債務不履行に基づき,解雇することができそうだけど,労働契約が当事者間の信頼関係をベースとした継続的契約であり,賃金が労働者にとって生活していくために重要なものであることからすれば,労務提供等が行われないことを理由とする解雇を制限することが合理的な場合もあるよね」
D「ふむ」
Y「そこで,多くの企業において,解雇を一定期間猶予し,その期間の就労を免除又は禁止する制度が設けられているんだよ」
D「そうなんでござるか!」
Y「今回のDのケースは,いわゆる『傷病休職』の類型に該当する可能性があるんだよね。すなわち,業務外の傷病による長期欠勤が一定期間に及んだ場合に行われるもので,休職期間中に傷病から回復し就労可能(治ゆ)となれば,休職は終了し,復職となる一方,回復しないまま期間満了となれば,自動退職又は解雇とするもので,解雇猶予を目的とするものなんだよ。」
D「いまでてきた『治ゆ』というのは,具体的に,どんな状態をいうでござるか?」
Y「復職の要件である「治ゆ」とは,原則として,従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したときを意味するんだよ。その程度に達しない場合には,治ゆには該当しないことから,使用者が労働者の就労を拒絶したり,解雇することが違法でないとされる場合もあるんだよ。」
D「マジでござるか!」
Y「でも,当初軽作業に就かせればほどなく通常業務に復帰できる場合には,使用者には,そのような配慮を行うことが義務付けられる場合があるんだよ。未払い給与を請求する事案を中での判断ではあるんだけど,判例では『労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては,現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が従前にはできないとしても,その能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,当該企業における労働者の配置・移動と認められる他の業務について労務の提供をすることができ,かつ,その提供を申し出ているならば,なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である』と判断したものがあるんだ」
D「なるほど。じゃあ,仮に,俺みたいに,職種や業務内容が特定されてない場合には,前の仕事を行えるぐらいに回復しなくても,他の業務ができて,そのことを言っていれば,いいってことでござるか?」
Y「そのとおり」
D「なるほど。ちなみに,プライベートでも大変だったんだけど,仕事でも,月200時間を超える長時間労働で,何百億円もの金額が動くプロジェクトの責任者に任され,上司から『ほんま自分使えんな,お前。辞めてしまえ』等と言われながら,机やいすを蹴飛ばされ罵倒されている状態の巻なんだが……もし,業務上うつ病になったらどうなるでござるか?」
Y「休職の原因となった疾病が業務に起因し,療養中の場合には,解雇が禁止されているから,休職期間が満了しても,自然退職の効果は生じないんだよ」
D「おおっ!」
Y「ただし,使用者が療養開始後3年を経過しても傷病が治らない場合に当該労働者に1200日分の平均賃金分の補償(打切補償)を行ったとき又はこれに代わる所定の諸病補償年金を受給しているとき,天災事故その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合は,解雇もしうるんだけどね」
D「へぇー,そうなんでござるか」
Y「もう少し事情を詳細に聴きたいから,一度事務所に来て,じっくり話を聞かせてよ」
D「おけ。ところで……
Y「ん?」
D「いい加減,突っ込んでもらえないかでござる」
Y「何に?」
D「……先に話題になった某国民的漫画に出てくる「某カラクリ人形」は,語尾に『ナリ』を付けるでござるな?」
Y「ああ」
D「それを途中から素で間違えて語尾を『ござる』ってしてしまった件……
Y「はっはっは,そうか,気づかずにスルーして,すまんかった」
D「……(無邪気な邪悪だな)」

つづく

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